共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

水みちを考慮した積雪変質モデルによる分布型融雪流出モデルの開発
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 防災科学技術研究所雪氷防災研究センター
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 平島寛行

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山口悟 防災科学技術研究所雪氷防災研究センター 主任研究員

2

石井吉之 北大低温研

研究目的  寒冷な山岳域においては、積雪は融雪水の供給等により水文過程に大きく影響を及ぼす。過去に積雪変質モデル”SNOWPACK”を用いてそれらの解析を行なってきたが、水みちの影響を考慮できなかった。そこで母子里で行った散水実験の結果を用いて雪氷防災研究センターで開発してきた水みちを再現可能な2次元の積雪浸透流モデルや、水みちを考慮したSNOWPACKを用いて再現計算を計算進め、最適化を行ってきた。本研究では、これらの成果に基づいて、水みちの影響を考慮したSNOWPACKを用いて過去に行なった母子里の試験流域の計算を行い、水みちを考慮することにより改善された点及び残される問題点を明らかにすることを目的とした。
図1 水みちを考慮したALPINE3Dを用いて計算した2005年4月7日午前10時時点における底面流出量分布 図2 河川流出量との比較  
研究内容・成果  本研究では、北海道大学の演習林がある北海道母子里で過去に観測された気象データを用いて、SNOWPACKを3次元的に計算するモデル「ALPINE3D」を用いて、積雪の計算を面的に行った。地形データは国土地理院の10mメッシュの地形図を用いたが、計算時間の関係から、50mメッシュのDEMを作成し、2.5km×2.5kmの領域で計算した。
 計算には2004/05年冬期の母子里の観測データを用いた。積雪を計算する際には水みちを考慮しないRichards Equation (RE)モデル方式と水みちを考慮するDual Domain Approach (DDA)モデル方式の2種類で計算した。
 積雪深や積雪重量の分布に関しては双方のモデルでほぼ同じ傾向が見られたのに対し、底面からの流出量の分布に関しては相違が見られた。ALPINE3Dを用いることで、積雪底面からの流出が図1のように分布となって計算される。その中から試験流域内にあるメッシュを抽出し、その範囲における底面流出量の合計と観測された河川流出量と比較し、図2に示した。
 水みちを考慮したDDAモデルでは、水みちを考慮しないREモデルと比べて、下記の違いがあった。
・ 積雪底面からの流出が早くなり、4月上旬から始まった。
・ 4月下旬以降の底面流出量の日較差が小さくなった。
 また、河川からの流出量と比較したところ、REモデルで見られる底面流出の始まりの遅れや、日較差が大きかった点が水みちを考慮したDDAモデルでは改善された。
 河川流出の実測値と比較するには雪の内部における水の側方流動や土壌中を浸透する水の移動も考慮し、それらを通って河川に流出していく過程も計算していく必要があるが、現時点ではそれによる遅れが考慮されておらず底面流出量の総和と直接比較しているため、計算の流出のタイミングが数時間早くでている。本研究における比較により、積雪中の水みちを考慮することが積雪期の河川流出の計算に大きな改善をもたらす可能性が示された。
図1 水みちを考慮したALPINE3Dを用いて計算した2005年4月7日午前10時時点における底面流出量分布 図2 河川流出量との比較  
成果となる論文・学会発表等