共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫サイトカインプロセシング酵素の活性化分子機構の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松本均 佐賀大農学部 非常勤研究員

2

瓜生央太 佐賀大農学部 非常勤研究員

3

落合正則 北大低温研

研究目的 昆虫は低温を始め様々な環境ストレスに抗して生息域を拡大してきた。その生存戦略の中でも、気温の変動や病原微生物の感染といった様々な物理的あるいは生物的ストレスに対する適応能力は重要な戦略機構であることは間違いない。形態的にも生理的にも、昆虫は哺乳類と大きく異なる動物であるが、細胞レベルでは驚くほどの共通性を有することは、最近約20年間の免疫学や発生学における細胞間・細胞内情報伝達系の研究によって証明されて来た。主に細胞間情報伝達に関与する因子がサイトカインと言えるが、本研究で着目したのは昆虫サイトカインの一種であるGrowth-blocking peptide(GBP)である。
  
研究内容・成果 今年度は、主にアワヨトウとカイコの幼虫を実験材料に用い、昆虫サイトカインであるGBPの活性化酵素について解析を行った。具体的には、前駆体GBP(proGBP)の活性化に関与するプロセシング酵素の同定を試みた。GBPは、通常(非ストレス条件下)でも脂肪体で一定の発現を維持し血中へ分泌されている為、proGBPは血清中に比較的高濃度存在している。proGBPのC末端側にコードされているアミノ酸23残基からなる活性型GBPペプチド領域が、様々なストレス条件下で特定のプロテアーゼによる切断を受けて活性型GBPへとプロセシングされること、さらに、この反応には特異的セリン型プロテアーゼが寄与することを確認した。このセリン型プロテアーゼこそ、proGBPプロセシング酵素であり、この酵素も不活性型で存在することを証明できた。すなわち、ストレス条件下で、まず、GBPプロセシング酵素が活性化しなければ、proGBP→GBPという活性化も起きないことになる。今回、既知ながら生理機能(基質)未知の血清中セリン型プロテアーゼhaemocyte proteinase 1 (HP1)に焦点を当て、これがGBPプロセシングに関与する可能性について検証した。HP1に着目した理由は、主にアメリカの2つの研究グループの最近の論文で、proGBP とHP1が他の複数の血清タンパク質と共に高分子量の複合体中に共存し、GBPプロセシングがそうした複合体形成と同調して起こる事実が発表されたからである。
本研究では、まず、カイコとアワヨトウのHP1を精製し、その一次構造を決定した。さらに、カイコHP1遺伝子を導入した昆虫培養細胞High Fiveで発現させたHP1前駆体自体やHP1前駆体抗体を用いた生化学的解析を行った。その結果、主に、以下のような2つの研究知見を得た。
1) アワヨトウ幼虫血清からGBPプロセシング酵素を部分精製し、その活性分画にHP1抗体と交差反応を示すタンパク質が存在することを観察した。
2) さらに、HP1抗体と予め4oC/12 hで前処理をした血清から抗体分子を遠心によって除去した場合、処理後の血清からGBPプロセシング活性が消失する結果を得た。
以上の実験結果は、HP1がGBPプロセシング酵素である可能性を示すものではあるが、ただ、いずれも直接的な証拠ではない。さらに、High Fiveで発現させたHP1は不活性型であり、現時点ではその活性化条件が判明していない。何れにせよ、今後、活性型HP1がproGBPをプロセシングできるかどうか?また、アワヨトウやカイコ幼虫血清からGBPプロセシング活性を指標に精製できるセリン型プロテアーゼがそれぞれのHP1であるかどうか?について明確な結論を導く必要があり、今後も研究を進める予定である。
  
成果となる論文・学会発表等