共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物脂質(脂肪酸)の水素同位体比測定:植物の温度適応の解明にむけて
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学理工研究域
研究代表者/職名 博士研究員
研究代表者/氏名 後藤晶子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

力石嘉人 北大低温研 教授

研究目的  本共同研究の目的は,(1)異なる環境で成育する植物を対象に,葉に含まれる脂質(脂肪酸)の水素同位体比を測定すること,そして,(2)得られた結果から「植物脂質の不飽和化率(植物が生合成する脂肪酸のうち,何%が不飽和化されたか)」を推定するための新たな方法論の構築の可能性を検討することである。その中でとくに1年目は,「植物の脂肪酸の水素同位体比を微量試料から測定すること」を主目的に,標準試料や代表試料を使用して,低温研の力石研究室が大幅に改良し,運用を行なっているガスクロマトグラフ-同位体比質量分析計(GC-IRMS)を用いることで,どの程度の微量試料まで安定水素同位体比が測定可能なのかを検討した。
  
研究内容・成果  低温環境下で生育する植物は,その寒さに適応するために,暖かい地域に生育する植物と比較して脂肪酸中の不飽和脂肪酸の割合が高いことが知られている。しかし植物葉に含まれる不飽和脂肪酸の存在量は,飽和脂肪酸からの合成(不飽和化)と不飽和脂肪酸の代謝(分解)のバランスで決まるため,単純に「葉中の存在量=純不飽和化率」にはならず,植物葉に含まれる不飽和脂肪酸の存在量からは「純不飽和化率」を見積もることができない。一方で,脂肪酸に含まれる水素元素が分解反応に関与しないため,脂肪酸の水素同位体比は,飽和脂肪酸からの不飽和化率のみを一義的に反映すると考えられている。すなわち,これを利用して「純不飽和化率」を求めることができれば,寒冷地での植物葉中の不飽和脂肪酸の高い存在量に関する定量的な議論が可能となると思われる。
 しかし,植物葉中に含まれる不飽和脂肪酸1つ1つの分子の水素同位体比を測定することは一般的には極めて難しい。それは,市販のGC-IRMSでは,水素同位体比の測定に1分子あたり約250〜300ngが必要であり,この量(250〜300ng)をGCに導入すると,微小量で複数存在する不飽和脂肪酸それぞれのシグナルピークを,ガスクロマトグラム上で分離することができないためである。そこで,本共同研究(1年目)では,超微小量の同位体比分析に対応している「低温研の改良型GC-IRMS」を用いることで,どの程度の微量試料まで安定水素同位体比が測定可能なのかを検討した。
 脂肪酸の標準試料を調整し,25〜500ngの範囲で様々な量を「低温研の改良型GC-IRMS」に導入したところ,25〜500ngの全ての範囲で,S/N(シグナル/ノイズ)比=100以上を達成することができ,安定水素同位体比を±5‰以内で,測定できることがわかった。これは,市販のGC-IRMSの感度の約10倍,これまで最も高感度であったJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)のGC-IRMSの感度(40ngで±7‰)を上回る感度である。
 今後は,さらに微小な5〜50ngの範囲で試料を導入し,最低導入量を決定する予定である。また,それらの結果を元に,実試料の分析を行なう予定である。
  
成果となる論文・学会発表等  現時点では,成果となる論文・学会発表はない。今後,最低導入量を検討し,実試料のデータが得られれば,それらの結果を元に,学会および論文で発表する予定である。