共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

水熱環境での結晶成長の特殊性を1分子高さレベルで究める
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山口大院創成科学
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 麻川明俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小松隆一 山口大院創成科学 教授

2

畝田廣志 山口大院創成科学 修士2年

3

佐崎元 北大低温研

研究目的 水熱合成はこれまで、産業的に有用な多くの材料で利用されており、水熱環境での結晶成長の理解は極めて重要である。しかしながら、水熱合成で用いる耐圧・耐熱の密閉容器(オートクレーブ)は内部を直接観察できないため、水熱環境の結晶成長はブラックボックス化し、水熱合成の条件だしも長時間を要する。本提案では、いくつかの助成を利用して水熱環境を観察できるチャンバーを試作し、レーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用いて、水熱環境での結晶成長を1分子高さレベルでその場観察することに挑戦した。具体的には、新圧電材料として期待されるノルセサイトBaMg(CO3)2を観察用結晶として用い、実際に水熱環境での結晶成長の特殊性を究める。
レーザー共焦点微分干渉計で観察された3MPa塩化マグネシウム結晶表面のステップ ノルセサイトの表面を観察.A:市販の反射型顕微鏡(正立)、B;レーザー共焦点微分干渉顕微鏡 水熱中でのウィッセライト▼からのノルセサイト▽の結晶成長.3MPa、室温から5℃/minで昇温、150℃で等温.
研究内容・成果 1)試作した観察チャンバーで水熱環境のノルセサイトのステップを観察が可能かを確認
若手研究(B)やクリタ水・環境科学振興財団 萌芽研究、八洲環境技術振興財団研究開発・調査助成を用いて、水熱環境(〜300℃、〜50MPa)を観察可能なチャンバーの作製に成功した。このチャンバーを用いて、3MPa、室温で偶然に存在した塩化マグネシウム結晶のステップの前進を観察することに成功した(図1)。このことから我々がチャンバーに採用した窓材はステップの観察に必要十分条件を満たしているということが分かった。しかしながら、ノルセサイト表面のステップを観察するためには、ノルセサイトの大気圧中の成長速度が0.1nm/min程度にもかかわらず、50-100μmサイズの観察結晶が必要である。我々は硝酸アンモニウムを1M添加し、ノルセサイトを1か月間90℃で育成することによって、50-100μmサイズのノルセサイトを合成することに成功した。一方で作製したノルセサイトは歪みや流体包有物を多く含むため、ノルセサイトの内部を通して表面を観察する場合(倒立型のため)、広義の欠陥の内部散乱が観察の障害となった(図2)。現在、セル上部への結晶の固定や欠陥量の少ない結晶の作製を検討しており、来年度は必ずノルセサイトの水熱中の結晶成長をステップレベルで観察できると確信している。

2)ノルセサイトの大気圧下での結晶化機構
大気圧下で、0.3M MgCl2、0.3M BaCl2、0.125M NaHCO3の順番で種々の温度の水溶液に混合すると、混合直後にウィッセライトBaCO3が一瞬のうちに生成した。本研究では、X-ray回折装置及び光学顕微鏡によるex-situ観測によりこのウィッセライトからのノルセサイトの生成機構を調べた。その結果、ノルセサイトは固相転移ではなく、ウィッセライトからの溶液媒介相転移により生成することが明らかになった。また、ノルセサイトの誘導期は温度の増加と共に短くなった。
次に、ノルセサイトを添加した純水の上澄み液をICP発光分光測定、全有機炭素計測し、種々の温度でのノルセサイトの溶解度を計測した。得られた溶解度の温度依存性をvan’t Hoffプロットし、溶解エンタルピーと溶解エントロピーを求めた。これらの値から1molの水和状態から1molの結晶状態になった時の水溶液からの結晶化の駆動力を最安定状態のノルセサイトと準安定状態のウィッセライト(文献値)について求めた。その結果、温度が増加するにつれて、ノルセサイトとウィッセライトの結晶化の駆動力差は大きくなるとわかった。すなわち、我々はエントロピーの影響により温度が高くなるに従いノルセサイトが生成しやすいということを見出した。
来年度は、本年度の市販の顕微鏡を用いた予備観察(図3)を基に、水熱中での結晶成長のステップの観察を本格的に着手する。その結果と大気圧での結果を比較する予定である。
レーザー共焦点微分干渉計で観察された3MPa塩化マグネシウム結晶表面のステップ ノルセサイトの表面を観察.A:市販の反射型顕微鏡(正立)、B;レーザー共焦点微分干渉顕微鏡 水熱中でのウィッセライト▼からのノルセサイト▽の結晶成長.3MPa、室温から5℃/minで昇温、150℃で等温.
成果となる論文・学会発表等 [1] 越後至,麻川明俊,畝田廣志,小松隆一,“ノルセサイトBaMg(CO3)2の結晶化に及ぼす硝酸アンモニウム添加の影響”、 MRS-J山口大学支部研究発表会,2019年1月
[2] 麻川明俊,畝田廣志,越後至,小松隆一,“ノルセサイトの溶液媒介相転移”、 結晶成長の数理,2018年12月
[3] 麻川明俊,畝田廣志,越後至,小松隆一,“ノルセサイトの溶液媒介相転移キネティクス” ,27th Annual Meeting of MRS-Japan,2018年12月
[4] 畝田廣志,麻川明俊,小松隆一,“水溶液からのノルセサイトBaMg(CO3)2の結晶化” ,27th Annual Meeting of MRS-Japan,2018年12月
[5] 畝田廣志,麻川明俊,越後至,小松隆一,“ノルセサイトBaMg(CO3)2の溶解度の温度依存性” ,日本セラミクス協会九州支部秋季大会研究発表会,2018年11月
[6] H. Asakawa,H. Uneda, I. Echigo,R. Komatsu,“Solution-mediated transformation of norsethite crystals” ,ISSCGF2018(秋保),2018年11月(国際学会)
[7] 麻川明俊,畝田廣志,越後至,小松隆一,“エナジーダイアグラムから見るノルセサイトの溶液媒介相転移” ,日本結晶成長学会,2018年10月