共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

複合環境制御型原子間力顕微鏡による氷表面の分子分解能計測
新規・継続の別 継続(平成27年度から)
研究代表者/所属 阪大基礎工
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 阿部真之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

宮戸祐治 阪大基礎工 助教

2

長嶋剣 北大低温研 助教

研究目的 気相で成長した氷結晶は未だその理由が解明されていない。これまで、氷表面の観察手法には光学顕微鏡や和周波発生分光法などが用いられてきた。しかし、これらの手法ではナノレベルの高い空間分解能で観察することが困難で、完全な理解には至っていない。大阪大学基礎工学研究科・阿部のグループでは、北海道大学低温科学研究所長嶋剣助教と協力し、氷表面を撮像できる原子間力顕微鏡 (AFM)の開発に関する研究を行ってきた。 具体的には、温度や湿度・圧力が制御されたAFM装置を実現させ、気相成長氷のAFM観察を行い、成長機構解明をナノメートルのレベルで明らかにすることを目的としている。
氷表面における非接触原子間力顕微鏡画像とラインプロファイル。 (a)氷上と(b)AgI結晶上での周波数シフトカーブ。 
研究内容・成果 これまでにサンプル周辺の気温・湿度・気圧、氷成長の種結晶 となる基板の温度を高精度に制御できる複合環境制御機構を組み込んだ q-plus 方式のAFMを構築したが、外部からの振動の影響が大きいことがわかり、防振部分の装置改良を行った。その結果、周波数変調方式モードの AFM測定 (FM-AFM) によって氷表面のステップ&テラス構造を画像することに成功し、周波数シフトの距離依存性測定にも成功した。また、単結晶の氷を成長させるための基板の作製も行った。氷と同じ六方晶構造で格子定数も近く、人工雪の種結晶に用いられている AgI 単結晶を育成し、それを基板として氷を成長さる方法を工夫して、安定な劈開面を得ることが可能になった。AgI結晶に氷を成長させ、その表面をAFM 観察してきた。氷の作製条件は、AFM 装置自体の温度および導入水蒸気ガス温度を-9°C 程度とし、AgI 基板のステージ温度を -24°C 程度にして、ステージ上で過飽和度 3.4 とした。その結果を Fig.1 に示す。バンチングしたように見えるステップ&テラス構造が確認できる。更に、この上で測定したフォースカーブを Fig.2(a) に示す。一方、Fig.2(b) は対照比較実験として室温・低湿度下において測定した AgI 基板上の結果である。ここで、氷表面上において特異的に観察された大きな負の周波数シフトは、液体層とAFM 探針との間にメニスカスが形成されたことで生じる吸着力によるもので、氷点下近傍において比較的厚い液体層が存在する可能性があると考えられる。

今後はAFM装置そのものを高速化させ、ビデオレートで氷の結晶成長を観察し、疑似液体層における物性を解明していく予定である。

氷表面における非接触原子間力顕微鏡画像とラインプロファイル。 (a)氷上と(b)AgI結晶上での周波数シフトカーブ。 
成果となる論文・学会発表等 (論文)
Y. Miyato, K. Otani, K. Nagashima, and M. Abe: “Ice surface formed in vapor phase at near freezing-point investigated by AFM” submitted.


(学会発表)
大谷勝樹、宮戸祐治、長嶋剣、阿部真之、「氷点下近傍における気相成長氷のFM-AFMによる表面構造観察」、応用物理学会春季学術講演会、3月9日〜12日、東京工業大学大岡山キャンパス、12a-W933-9.

Y. Miyato, K. Otani, K. Nagashima and M. Abe, 
“Ice surface formed in vapor phase at near freezing-point investigated by AFM”
ACSIN-14 & ICSPM26 October 21 – 25, 2018, Sendai International Center, Sendai, Japan (22P021).