共同研究報告書
研究区分 | 開拓型研究 |
研究課題 |
氷のキラル結晶化における不斉発現機構の解明と不斉源としての可能性の探索 |
新規・継続の別 | 開拓型(1年目/全3年) |
研究代表者/所属 | 東北大学金属材料研究所 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 新家寛正 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
木村勇気 | 北大低温研 | |
2 |
羽馬哲也 | 北大低温研 | |
3 |
長嶋剣 | 北大低温研 | |
4 |
香内晃 | 北大低温研 | |
5 |
力石嘉人 | 北大低温研 |
研究目的 | 本研究では、キラルな結晶構造を有する氷IIIの液相からの結晶化過程におけるキラリティ発現過程を解明し、また、氷III表面上での絶対不斉合成を実施し鏡像異性過剰を検知することにより、“キラルな氷”に基づいた氷物性研究及びホモキラリティ研究の新たな自由度を開拓することを目的としている。初年度の研究計画では、温度-20oC・圧力2-4kbar環境下で安定相である氷IIIの生成、及び、偏光顕微鏡を用いた回転検光子法による結晶の利き手のその場判別を実験目的としている。 |
研究内容・成果 | 【実験系構築】:III相を実際に生成するために、北大低温研に設置されている低温室(室温-20oC)内でアンビルセル型高圧発生装置を使用することにより、III相が安定となる温度圧力条件を得た。氷生成のその場観察と分光学的相同定を目的として、倒立型偏光顕微鏡にレーザー(波長532nm)を導入し分光器と組み合わせることにより、低温環境下で動作する顕微ラマン分光装置を構築した(図1)。【氷III生成実験】:H2Oをアンビルセル内で圧力操作しながら、相転移の様子を倒立型偏光顕微鏡でその場観察した。図2に偏光顕微鏡による相転移のその場観察像とH2Oの相図との関係を示す。相図から、温度-20oC固定のまま圧力1気圧の状態から圧力を上昇させていく際に現れる相は、低圧安定相から順にIh相、Liquid相、III相、V相、VI相であることがわかる。すなわち、Liquid相安定圧力条件から加圧していくと相転移が3回観察され、反対に減圧していくと相転移が1回観察されるはずである。偏光顕微鏡像1から5は加圧した際の連続写真であり、加圧に伴い3回の相転移が実際に観察された。また、偏光顕微鏡像6から8は減圧した際の連続写真であり、減圧に伴い1回の結晶化が実際に観察された。相図と出現相との対応から観察された相は全て帰属可能であり、特に、Liquid相安定圧力条件から加圧した際に現れた初相が氷IIIであることがわかる。以上のことから、氷IIIの生成を確認した。【氷IIIのキラリティその場判別】:III相結晶はC軸方向のみ光学的に等方であるため、C軸方向で回転検光子法を実施し旋光性を検知することで結晶の利き手を判別可能である。図3に、Liquid相中のIII相多結晶の偏光顕微鏡像を示す。図3の1は直交ニコル像である。直交ニコル下で複屈折性物質は明色を呈する一方、光学的当方性物質は暗色を呈する。多結晶の大部分が明色を示す一方、青い矢印で示した結晶粒は暗色を呈しC軸方向を向く可能性が高い。右(左)結晶の場合、直交ニコル状態から検光子の角度を右(左)周りに傾ける際に暗くなる(図中黄色矢印は偏光子の方向)。図3の2(3)は検光子を右(左)に傾けた時の顕微鏡像であり、旋光性のないliquid相よりも僅かに暗い(明るい)色を呈しており、右結晶である可能性がある。しかし、複屈折性物質も直交ニコル下で消光する結晶方位(消光位)が存在し、今回着目した結晶粒がこの消光位にあり暗色を示した可能性がある。これを検討するためには明るさの方位依存性を検討する必要がある。来年度はこの点の改善に取り組む。【氷IIIのラマンスペクトル測定】:実際に取得したラマンスペクトルはS/N比が小さく、バンドの振動モード帰属が困難であり、出現相の同定には至らなかった。来年度はこの点の改善に取り組む。 |
成果となる論文・学会発表等 |