共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

樹木集団の空間不均一性を簡約化した森林生態系の環境応答モデル
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 早稲田大学人間科学学術院
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 横沢正幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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原登志彦 北大低温研 教授

研究目的 植物個体群モデルには、大別して個体ベースモデル(IBM)とサイズ構造モデルがある。個体ベースモデルは植物個体ごとに全ての個体の成長や死亡などを計算する。一方、サイズ構造モデルは、成長や死亡に伴う植物個体のサイズごとの個体数の時間変化を計算する。個体ベースモデルでは個体数増大に伴い計算コストが急激に増大することが知られている。一方、サイズ構造モデルでは個体数増大に伴う計算コストの増大はほとんど起こらないが、個体群動態に重要な役割を持つ個体の空間分布を積極的に扱ってこなかった。本研究では空間モーメント近似を施したサイズ構造モデルの実装方法を検討するとともに個体ベースモデルとの比較を行なった。
  
研究内容・成果  空間モーメント近似を適用したサイズ構造モデルを実装するにあたって、植物の生えている二次元平面上を格子上に分割した。各格子をベクトルクラスと呼ぶことにする。植物個体はこのベクトルクラスの中央の位置に存在すると考え、植物間の距離は属するベクトルクラス間の距離として計算される。このベクトルクラスの面積が小さくなればなるほど、個体の空間分布の解像度が高くなり理論値に近くなる。一方、ベクトルクラスの面積が大きくなればなるほど、空間分布の解像度が下がる。また、従来の空間二次モーメントの時間変化の計算では、同一のベクトルクラスに属する個体間の競争が過大評価される傾向があったため、その補正手法を開発した。偏微分方程式の数値計算にはCIP法を用いた。
 この手法で実装した空間モーメント近似を適用したサイズ構造モデルと、空間分布を考慮した個体ベースモデルの挙動を比較した結果、これらのモデルの挙動はほぼ一致することが分かった。また、対象プロット面積や個体密度といった変数を増大させたときのこれらのモデルの計算コストの比較を行った。その結果、個体ベースモデルではこれらの変数の増大に伴って、計算時間が急激に増大した。一方、サイズ構造モデルではこれらの変数が増大しても計算時間はあまり増大しなかった。
 次に、個体の空間分布の解像度が、個体サイズ分布のシミュレーション結果にどのような影響を及ぼすかを調べた。このために、空間モーメント近似サイズ構造モデルのベクトルクラスの一辺の長さを変えて複数シミュレーションを行なった。その結果、ベクトルクラスの一辺の長さを大きくして、空間解像度を下げていくと植物の成長が抑制され、個体ベースモデルの挙動から大きく乖離することが分かった。これは局所的な空間分布が植物個体群動態において重要なことを意味する。また、このようなベクトルクラスの大きなモデルは、個体ベースモデルの一種にギャップモデルと呼ばれるパッチ(ギャップ)ごとに平均場近似を施したモデルがあるのだが、それに近い挙動をしていると考えられる(より正確には、ギャップモデルの中でも、パッチ間の相互作用を考慮する既存モデルなどの挙動に近づく)。パッチモデルのパッチの一辺の長さは約10~30mであることから、パッチ内での平均場近似は大きなバイアスをシミュレーション結果に与えていることが考えられた。
  
成果となる論文・学会発表等 Y. Nakagawa, M. Yokozawa, A. Ito, T. Hara, Effectively tuning plant growth models with different spatial complexity: A statistical perspective. Ecological Modelling 361, 95–112, 2017.