共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
チョウ類の環境適応に関わる表現形質の解析 |
新規・継続の別 | 継続(平成25年度から) |
研究代表者/所属 | 山口大院創成科学 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 山中明 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
山本響 | 山口大院創成科学 | 博士前期課程2年 |
2 |
落合正則 | 北大低温研 |
研究目的 | チョウ類の成虫における表現型多型を探索するとともに、チョウ類の体色や形態を変化させる神経内分泌調節因子の作用機作の詳細な解析を行う。また、表現型多型からチョウ類の進化発生過程を考察してゆく。 |
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研究内容・成果 | これまでにシロチョウ科のモンシロチョウ雄成虫の脚の腿節にある毛状鱗粉に表現型可塑性があることを明らかにし、山口と札幌個体群のモンシロチョウを比較した結果、毛状鱗粉形成には個体群差があることが示唆された。今回、シロチョウ科のスジグロシロチョウ成虫の山口個体群と札幌個体群間にも、モンシロチョウで認められた毛状鱗粉形成に地理的な差異が認められるかを検討した。その結果、山口個体群において雌雄ともに、日長および温度条件の違いにより、成虫の脚の毛状鱗粉の本数や長さは変化し、表現型可塑性を示すことが明らかとなった。夏季に採集された札幌個体群は、山口個体群の長日条件下飼育のものよりも本数は多く、長さは長いという結果が得られた。つまり、札幌個体群は、山口の酷暑よりも寒冷な夏に適応した形質となっていることが示唆された。今後、個体数を増やし、より詳細なデータの蓄積が必要である。 さらに、蛹体色発現に関する解析を行った。山口個体群を用い、長日条件下での蛹の体色は、鮮緑色、緑色、白緑色、緑褐色および褐色型の5つに分類された。蛹体色発現を決定する環境要因は背景色であることが分かった。蛹化時の背景色と蛹の表皮に生じるメラニン沈着との関連を解析した。その結果、蛹表皮のメラニン化は、黒色の背景色時に促進される傾向が認められた。蛹の体色発現調節機構を検討するため、長日および短日個体が前蛹初期に達したときに、胸腹部間を糸で結紮した。長日個体の頭胸部は緑色、腹部は黄白色となった。短日個体の頭胸部および腹部は黄白色となった。つまり、蛹の体色を緑色化する内分泌因子が、頭胸部から分泌され、その分泌の有無は日長によって制御されていることが示唆された。今後、スジグロシロチョウの札幌個体群の蛹が、山口個体群と同様の背景色感受性をもつかを検討していく必要がある。 別に、ジャコウアゲハは蛹の休眠性が異なると、蛹の体色が異なる表現型可塑性を示す。しかし、本種の蛹の休眠性調節機構については未解明である。本研究では、短日および長日休眠蛹の休眠性に関して20-ハイドロキシエクダイソン(20-E)の応答性による比較解析を行った。その結果、蛹化1から15日目および30日目までの20-Eの応答性は、長日休眠蛹よりも短日休眠蛹で高かく、長日休眠蛹は短日休眠蛹に比べ、20-E投与後、31および90日目における成虫化発生が少なかった。つまり、短日休眠蛹と長日休眠蛹の休眠誘起・覚醒のメカニズムは異なり、長日休眠蛹において20-E に対する応答性を抑制する因子が体液中に存在している可能性も示唆された。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
江島 凌・勇村悠介・浜辺真帆・富田雅隆・山本 響・落合正則・北沢千里・山中 明、 スジグロシロチョウの蛹体色について、日本動物学会中国四国支部会報,69, p. 2, 2017, 中国四国地区生物系三学会合同大会高知大会(日本動物学会中国四国支部第69回大会)(高知大学), 2017.5.13-14. 酒井勇輝・河﨑秀平・北沢千里・落合正則・山中 明、ジャコウアゲハにおける短日および長日休眠蛹のホルモン応答性の比較、日本動物学会第88回大会デジタルWebプログラムP058 , 2017, 日本動物学会第88回富山大会(富山:富山県民会館), 2017.9.21-23. |