共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

粒子の成長・変換をより自然に表現する氷相バルク微物理モデルの開発
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象研究所
研究代表者/職名 室長
研究代表者/氏名 山田芳則

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

南雲信弘 気象研究所 研究官

2

川島正行 北大低温研

研究目的  降雪雲内での降雪形成に係わる複雑な微物理過程を適切にモデル化することは、降雪形成過程の解明や天気予報での降雪予測の精度向上などにとって重要である。高性能なバルク微物理モデルの開発は、降雪形成過程の解明や降雪予測の精度向上に大きく貢献する。
 本研究の目的は、氷相粒子のより自然な成長や変換を表すことのできる氷相バルク微物理モデルを開発することである。特に、多くのバルク微物理モデルでのカテゴリー(雲氷と雪、あられ)を排して、「雪結晶」と「あられ」の2つに再編成することによって小さな氷粒子から雪粒子への成長をより自然できるようにするとともに、粒子のライミング量を考慮してあられ発生過程を高度化する。
図1  4つのバルク微物理モデルによる予報時間4時間目での前1時間積算降水量(陰影、スケールは統一)。 図2 図1と同じ。ただし、雪による地上降水量を示す。 図3 図2 と同じ。ただし、霰による地上降水量を示す。
研究内容・成果  本研究では、氷相粒子を2つのカテゴリー「雪結晶」と「霰」に分類し、それぞれの混合比と数濃度を予報変数とする氷相バルク微物理モデルを開発して気象庁非静力学モデル (JMA-NHM) にオプションの一つとして組み込んだ。霰を独立したカテゴリーに分類する点で Morrison and Grabowski (2008)とは大きく異なっている。雪結晶には霰以外の氷相粒子が含まれる。このようなモデルでは、小さな氷粒子から降雪粒子への変換がより自然に表現できるだけでなく、「雲氷」と「雪」に分類するモデルにおける雲氷から雪への変換過程の恣意性を排除することが可能である。雪結晶に属する小さな粒子と比較的大きな粒子では落下速度が異なるため、ある大きさ(暫定的に120μm)を境界にして雪結晶を2つの領域に分割し、これらの領域について混合比と数濃度を別々に予測する。霰過程では粒子のライミング量を予報変数とする新たなパラメタリゼーションを開発し、ライミング量の多寡が霰生成に反映できるようにした。ライミングした氷粒子から霰への変換は粒子の密度変化に基づいており、単位時間あたりの霰粒子の生成数をパラメーターとしている。本研究で新たに開発したモデルは Yamada (2016) を元にしているので、ガンマ関数型の粒径分布や併合計算での厳密式の採用、非球形粒子を扱える点などは同じである。
 新規に開発した微物理モデルを用いて、2014年12月7日午前8時頃に北大・低温研において大きな霰粒子が観測された事例について予備的な実験を行い(EX3)、既存の微物理モデル(JMA-NHMに元々組み込まれているもの (EX0)、Yamada (2016) のモデル (EX2a)、及びEX2a でライミング量を予報変数とするもの (EX2)との比較を行った。いずれも実験でも氷相粒子の混合比と数濃度を予報変数とし、氷粒子の粒径分布(逆指数分布)や形状(球形)、密度などの特性はJMA-NHMと同じとした。モデル計算領域は低温研を中心とする400 km 四方, 水平解像度 0.5 km, 鉛直層数は60である。初期時刻は12月6日18 UTC、初期値と境界値にはメソ解析を用いた。境界層モデルは Ito et al. (2015)のグレーゾーン対応モデルを採用した。図1は予報時間4時間目 (Valid time: 7日 07 JST) での地上における前1時間積算降水量(水換算)の空間分布である。該当する気象庁レーダー観測結果も示した。微物理モデルの違いにかかわらず、レーダー観測と同様の降雪域の広がりやバンド状のやや強い降雪域が同様に再現されている。図2と3は、図1の降水量に占める雪と霰の寄与に分けて示す。EX0では霰の寄与が比較的小さいことを除けば、4つの結果に極端な差異は認められない。以上のように、地上での1時間降水量には微物理モデルによる顕著な違いが現れなかったが、降雪雲の3次元構造はモデルによって大きく異なっていた。
 どのような氷相微物理モデルが適切なのかは、降雪雲の3次元構造の視点からも検討する必要がある。
図1  4つのバルク微物理モデルによる予報時間4時間目での前1時間積算降水量(陰影、スケールは統一)。 図2 図1と同じ。ただし、雪による地上降水量を示す。 図3 図2 と同じ。ただし、霰による地上降水量を示す。
成果となる論文・学会発表等 ・山田芳則(気象研),川島正行(北大・低温研):粒子の成長・変換をより自然に表現する氷相バルク微物理モデルの試作.日本気象学会2017年度秋季大会、P117, 発表日:2017年10月30日.
・山田芳則(気象研),川島正行(北大・低温研):粒子の成長・変換をより自然に表現する氷相バルク微物理モデルの試作(2).日本気象学会2018年度春季大会、P308, 発表日:2018年5月18日発表予定.
・南雲信宏・足立アホロ・山田芳則(気象研)・川島正行(北大・低温研):凍雨および雨氷のJMA-NHMの再現性と環境場の特徴.日本気象学会2018年度春季大会、P104, 発表日:2018年5月16日発表予定.