共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 耕地生態系と大気環境の相互作用の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者／所属 農業・食品産業技術総合研究機構
研究代表者／職名 ユニット長
研究代表者／氏名 桑形恒男

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 丸山篤志 農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員

2

 小野圭介 農業・食品産業技術総合研究機構 主任研究員

3

 伊川浩樹 農業・食品産業技術総合研究機構 研究員

4

 石田祐宣 弘前大学大学院理工学研究科 助教

5

 渡辺力 北大低温研 教授

研究目的 本研究では実観測に基づいた植物生理・群落微気象の知見とこれまで我々が発展させてきた大気が植生に与える影響のモデリングを組み合わせることで、耕地生態系から大気へ与えるフィードバック作用を定量化することを目的とする。近年、寒冷地を中心に地球温暖化が進行し、農耕地の気象環境や作物の生産への影響が顕在化している。さらに温暖化によって作物の栽培適地が高緯度地帯まで移動し、同地域の物質循環や局地気象の形成に大きな影響をおよぼすことが予想される。本研究はこれらの問題に対処するために必須の基礎的なプロセスについて扱う。
　　
研究内容・成果 （1） 研究代表者らがこれまでに構築してきた群落微気象モデルの群落内地表面の熱輸送プロセスを改良し、水稲群落における田面水の水位変化が地表面交換係数等に与える効果を組み入れた。またC3植物を対象とした群落光合成の生理モデル（de Pury & Farquhar， 1997）を上記の群落微気象モデルに結合し、作物の水環境と光合成が再現できる群落熱収支モデル（以降「群落熱収支モデル」と表記）を構築した。
（2） （1）で構築した「群落熱収支モデル」に、シンプルな大気の熱・水輸送モデル（1次元）を結合し、作物・大気間の熱・水循環と大気境界層内の温度・湿度環境が再現できるようにした。
（3） 開放系大気CO2増加(FACE)実験における、高い光合成能力を持つインディカの水稲品種「タカナリ」とわが国で広く栽培されている品種「コシヒカリ」の光合成と蒸発散に関わる生理特性（登熟初期）の計測データに基づき、両品種に対する「群落熱収支モデル」の光合成と湿度環境に対する気孔応答パラメータを決定した。
登熟初期における両品種の光合成と蒸発散の大気CO2濃度に対する応答性の違いをモデル計算に基づき比較した結果、将来の高CO2濃度環境で「タカナリ」を栽培する水田からの蒸発散量は、現在のCO2環境で「コシヒカリ」を栽培する場合とほぼ同じであることが明らかとなった。またそれぞれの品種が同一なCO2環境下において広域で作付けされた場合、「コシヒカリ」に比べて「タカナリ」では日中の大気最下層の気温が0.5℃、群落温度が1℃程度低下することが示された。
参考文献：
de Pury， D. G. G.， & Farquhar， G. D. (1997) Simple scaling of photosynthesis from leaves to canopies without the errors of big-leaf models. Plant， Cell and Environment， 20， 537–557.
　　
成果となる論文・学会発表等 [1] Ikawa H. et al. (2017) Evapotranspiration in a rice paddy field over 13 crop years， J. Agric. Meteorol.， 73(3)， 109-1187.
[2] Maruyama A. et al. (2017) A water temperature simulation model for rice paddies with variable water depths， Water Resources Research， DOI:10.1002/2017WR021019.
[3] Ikawa H. et al. (2018) Increasing canopy photosynthesis in rice can be achieved without a large increase in water use-a model based on free-air CO2 enrichment， Global Change Biology， 24， 1321–1341， DOI:10.1111/gcb.13981.
[4] Ikawa H. (2018) Rice production， water use， and atmospheric feedbacks， Proceedings of the International Symposium on Agricultural Meteorology 2018， OS-E-5， 222.
[5] Kuwagata T. et al. (2018) Influence of local land cover to the meteorological conditions in farmland –Case Study for rice paddy field near Tsukuba City in Japan–， Proceedings of the International Symposium on Agricultural Meteorology 2018， E-17， 242.