共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ニカメイガ越冬幼虫体液の氷結晶成長抑制に関わる物質の探索
新規・継続の別 継続(平成28年度から)
研究代表者/所属 島根大学生物資源科学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 泉 洋平

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

落合正則 北大低温研 准教授

2

佐崎 元 北大低温研 教授

研究目的  昆虫の寒冷地への適応は、凍結すれば死亡する凍結回避型と凍結しても耐えられる耐凍型の二つに分けられる。昨年までの研究で凍結耐性を持たないニカメイガ非休眠幼虫の体液は、凍結時に不均一で大きな結晶構造を取るのに対して、凍結耐性を持つ越冬幼虫および低温順化を行った休眠幼虫の体液は凍結時に比較的均一で小さな結晶構造をとること、越冬幼虫の体液において結晶成長が抑制されていることを明らかにした。そこで、本研究ではニカメイガ越冬幼虫体液の凍結時の氷結晶構造に関与する物質の同定を目的とする。
  
研究内容・成果  昨年までの一連の研究成果をもとに、以下の研究を行った。1.越冬幼虫および非休眠幼虫の体液凍結時の氷結晶成長の観察、2.越冬幼虫および非休眠幼虫のフェノールオキシダーゼ前駆物質のウェスタンブロッティングによる解析。。
 一つ目の実験は昨年と同様に越冬幼虫および非休眠幼虫から体液を取り出し、ガラスキャピラリーに封入し、Growth Cell内にて様々な温度条件で結晶成長を観察した。その結果、非休眠幼虫は昨年と同様に純水と同じようにGrowth Cell内の温度が下がるに従って成長速度が速くなる傾向が見られた。また、体液を40℃で熱処理しても成長速度に変化は見られなかった。越冬幼虫の体液では、昨年度の実験では一定の温度を下回るまでは結晶成長は観察されず、凍結する際は全体が一瞬で凍結したが、今年度は結晶成長の観察される個体とされない個体が混在していた。しかしながら、結晶成長が観察された温度は-10℃以下と、非休眠幼虫の-2℃前後に比べて有意に低い温度であった。これらの結果から、個体差はあるものの越冬幼虫では体液の結晶成長は抑制されていると考えられた。また、越冬幼虫の体液を40℃で熱処理を行っても成長速度に有意な差は見られなかった。このことから、越冬幼虫体液において結晶成長を抑制している物質は、40℃では変性しないタンパク質、もしくは糖や糖アルコールなどのタンパク質以外の物質であることが示唆された。
 二つ目の実験では、非休眠幼虫および越冬幼虫体液中のフェノールオキシダーゼ前駆物質(proPO)の量をウエスタンブロッティングにより比較した。その結果、両者の体液中のproPO量に有意な違いは見られなかった。越冬幼虫の体液は非休眠幼虫の体液に比べて極めて黒化しにくい理由は、proPOの活性が低いことによると示唆された。
 
  
成果となる論文・学会発表等 泉 洋平・村上 果生・佐﨑 元・古川 義純 体液の氷結晶成長の抑制がニカメイガの耐凍性におよぼす役割 日本昆虫学会第77回大会 9月4日 松山