共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物由来氷核活性の氷晶形成機構の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東大・農学部・森林科学
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 石川雅也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

越後拓也 秋田大国際資源 准教授

2

灘浩樹 産総研 主任研究員

3

佐崎 元 北大低温研

4

長嶋 剣 北大低温研

研究目的  レンギョウ枝の凍結過程を観察すると、枝外側ではなく中心部にある髄の側面から凍結開始することがサーモビュア観察から判明している。枝髄にはシュウ酸カルシウム結晶一水和物(COM)が多数存在し、本結晶が高氷核活性を持つことが判っている。枝髄はCOM結晶を多数含む死んだ組織と多数の空隙によって構成されているため、実際には、液体の水が少ないところが凍結開始している可能性が高い。髄内部空間は生きている細胞や木部に囲まれており、湿度は高いと想像される。COM結晶上の氷晶生成はこれまで水中(液相)での高氷核活性を確認していたが、気相(水蒸気)からの氷晶形成も確認する必要があると考えられた。
過飽和条件(試料 -15℃、Bottom-13℃)での結晶周囲での過冷却水滴(液滴)の凝結  
研究内容・成果  昨年度に引き続き、佐崎氏の作成した高精度に内部飽和水蒸気量を制御可能な顕微鏡ステージを利用して、レンギョウ枝髄から単離したCOM結晶、およびレンギョウ髄片(内部にCOM結晶を含む)上での気相水蒸気からの氷晶生成観察を行った。観察は、レーザー顕微鏡で行った。温度は-7℃〜―19℃で行い、飽和水蒸気量を変えて実験した。結晶をカバーガラス片上に押付けて、或は枝髄片をシリコン系グリースで上部銅板上に貼り付け、下部銅板上の氷温度の両者を高精度で制御して温度と飽和水蒸気量を制御して実験を行った。
 昨年と同様に、多数のCOM結晶周囲での過冷却水の凝結が観察された。過冷却水の凝結であることは、干渉縞が出ることや、となりの水滴と融合していくことから確認できた。凝結は結晶領域に主に生じた。今回、COM結晶は、結晶懸濁液滴下⇒乾燥ではなく、直接押し付けてカバーガラス上の小領域に張り付けた。昨年は、ガラス上全体に微細COM結晶が存在していたが、今回はCOM結晶の殆どないガラス領域が多く存在した。COM結晶のないカバーガラス上領域では、過冷却水の凝結は、殆ど観察されなかった。一方、COM結晶からの氷結晶発生は最終的に観察されなかった(-7℃〜-15℃)。
 実験数不足のため結論的には言えないが、本実験結果は、COM結晶上で気相水蒸気からの直接氷結晶発生能力は低いことが考えられた(ヨウ化銀結晶上ではこの作用がある)。COM結晶の氷核活性は、液相の水を介する可能性が高い。また、何らかの理由で、本実験系でのCOM結晶の氷核活性は高くなかった。
 実際のレンギョウ枝での凍結開始を模するため、枝髄片の氷結晶形成能を本実験系にて検証した。枝髄片の中には、多数のCOM結晶が存在するが表面はセルロースでおおわれている。今回の過飽和条件下での気相から氷核形成能検定では、髄片上での過冷却水の凝結や氷結晶形成は見られなかった(-7℃〜-19℃)。セルロース内部のCOM結晶周辺が凍っている可能性はあるが、それは見えないので実際どうかはわからなかった。これはセルロースが、水や氷の形成を妨げている可能性を示唆した。原因は2つあげられる。セルロース下地での水・氷の核形成が難しい(これは、これまでの水中でのセルロースのみの氷核活性がほとんどないことと合致する。ただし、COM結晶を内包するレンギョウ髄片は液相系の氷核活性検定において、-3℃程度の高氷核活性を示す)。セルロースが水蒸気を吸収しセルロース周辺の水蒸気量を下げている可能性。
 気相系からの氷晶形成は今回のいずれの実験でも生じなかった。レンギョウ枝髄の凍結開始には、中空を仕切っている髄片より、木部のすぐ内側に連続して存在するCOMを含む組織が重要であることを示唆した(より液相水分が存在する可能性が高い)。
過飽和条件(試料 -15℃、Bottom-13℃)での結晶周囲での過冷却水滴(液滴)の凝結  
成果となる論文・学会発表等 1. Ishikawa M, et al. (2017) Visualization of freeze initiation in the pith of Forsythia stems using infra-red thermography第58回日本植物生理学会
2. 石川雅也 他(2017)レンギョウ枝髄における凍結開始過程の詳細の可視化解析 低温生物工学会
3. Ishikawa M, et al. (2017) Visualization of freezing behaviors in cold hardy plant tissues using MRI and infra-red thermography. International Symposium on Imaging Frontier 2017
4. Ishikawa M, et al. (2018). Preferential freezing avoidance localized in anthers and embryo sacs in wintering Daphne kamtschatica var. jezoensis flower buds visualized by MRI. Plant Cell and Environment (provisionally accepted)
5. Ishikawa M, et al. (2018). Ice nucleation activity in plants: the distribution, characterization and their roles in cold hardiness mechanisms. In: Iwaya-Inoue et al. (eds) Survival Strategies in Extreme Cold and Desiccation: Adaptation Mechanisms and Their Application. Springer (in print)