共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

油脂ー乳化剤結晶表面および界面の原子間力顕微鏡観察
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 広島大学大学院生物圏科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 本同宏成

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石橋ちなみ 広島大学大学院生物圏科学研究科 学生

2

谷口恵理 広島大学大学院生物圏科学研究科 学生

3

長嶋剣 北大低温研

研究目的  エマルション食品の冷凍―解凍安定性向上のため,様々な乳化剤を組み合わせる試みがなされているが,なぜ安定性が向上するのか不明な点が多い.これらは乳化剤と油脂の相互作用が不明なため,油脂結晶の成長が乳化剤によりどのように制御されているかが明らかになっていないためである.本研究では乳化剤と油脂の相互作用を分子レベルで理解するために,乳化剤結晶上の油脂結晶のエピタキシャル成長の観察を試みる.分子レベルで結晶成長を観察するには,高い空間分解能を持つ原子間力顕微鏡(AFM)がもっとも適している.そこで乳化剤,油脂結晶の接合部分をAFMにより観察し,分子間相互作用の理解を深めることを目的とする.
  
研究内容・成果  エピタキシャル成長する乳化剤―油脂の組み合わせおよびエピタキシャル成長しない組み合わせをすでに発見している.これらの系を用いて,乳化剤結晶表面で油脂結晶がどのように成長するのかをAFMを用いてその場観察することを目的としている.まずはAFMによる油脂結晶観察の可能性を明らかにするために,油脂単体の結晶について観察を試みた.試料には精製された単一成分の油脂であるトリラウレート(LLL)を用いた.LLLは以前より結晶成長観察に用いており,単結晶の育成が比較的容易である.ガラス基板上にLLLを結晶化させ,融液が完全に固化した状態でAFM観察に供した.ガラス基板上のLLL結晶は数百ミクロン程度の単結晶の集合体であると光学顕微鏡観察の結果明らかとなっていたが,結晶の配向が揃っておらず,AFM観察に適した面を判断するのが難しかった.比較的低倍率での観察は可能であったが,分子レベルのステップなどの構造は観察できなかった.このためガラス基板に平行に配向している試料を作製する必要があるとわかった.その後試料作製条件を検討した結果,比較的多くの結晶がガラス基板上に配列した試料を作製する条件を見出した.光学顕微鏡による観察でも,単結晶に特有のモルフォロジーが観察できることから,個々の結晶が独立して存在していることが確認された.本試料を用いてAFM観察を行ったところ,分子高さと思われる4nm程度の高さをもったステップ-テラス構造を観察することに成功した.しかしながら観察を続けるうちに表面のモルフォロジーが急速に変化していったことから,AFM観察により表面にダメージが生じている可能性が考えられた.LLLの融点は45度程度であるが,分子性結晶であるため比較的柔らかく,AFMのスキャンにより表面が削れらるなどのダメージが生じている可能性がある.
 以上のことから,AFM観察可能な試料を作製する条件は明らかになったが,今回用いたLLLは分子レベルのAFM観察には適さない可能性がある.今後はより融点の高い油脂試料を試みると同時に,表面へのダメージの小さいタッピングモードを用いることで,油脂結晶の分子レベル観察を試みる.また実際に食品に用いられている天然油脂は液状の油と固体の油脂の混合物であるため,今回行ったドライな試料とは異なる.そのため,液中観察の可能性を探るとともに,天然油脂から液状油を取り除く方法を検討する.透過型電子顕微鏡による観察では液状油が取り除かれたものが用いられていることから,その手法を用いることで固体脂のみを取り出しAFM観察に供することができると考えられる.
  
成果となる論文・学会発表等