共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

環境変動がミズゴケ群集の一次生産に及ぼす効果の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北九州市立大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 原口昭

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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原登志彦 北大低温研

研究目的  泥炭地は、全球の土壌炭素の約30%を保持し、有機炭素が集積した生態系として全球の炭素循環において重要な機能を果たしている。寒冷域の泥炭地群集の主要な構成植物はミズゴケ類であるが、これは環境変動の影響を受けやすい寒冷圏の群集における炭素収支の気候変動に対する応答を予測する上で鍵となる植物である。これまでの共同研究において、個体群レベルでの光合成特性の評価、光と水位環境に対する群落光合成の応答を実験的に解析したが、本年度は、泥炭地における環境の変動性に着目し、水環境の変動に対して光合成速度がどのように応答するのかを実験的に解析し、ミズゴケ個体群の一次生産機能の評価理論に組み込むことを試みた。
  
研究内容・成果  ミズゴケ群集の光合成活性の水環境の変動に対する応答を群集レベルで把握するために、まず、供試試料として乾燥(火入れによる灼熱の影響も含む)により白化したミズゴケを用い、これを湿潤状態で密閉容器内にて栽培し、ミズゴケ個体の生理活性が回復する過程での光合成活性の変化を継続的に計測した。光合成活性は、植栽したミズゴケ個体群の二酸化炭素収支の計測、およびクロロフィル蛍光計測により評価した。本実験に用いた白化したミズゴケ群集の、光量子束密度約1000 µmol/m2/sにおける二酸化炭素吸収速度は、健全なミズゴケ群集が同じ光量子束密度で示す速度の約10%まで低下していたが、5か月間の回復処理の結果、60-90%まで回復した。これに対し、クロロフィル蛍光計測によるFv/Fm値は、健全なミズゴケが示す約0.7-0.8と比較して、白化ミズゴケ個体では約0.5までしか低下せず、回復の過程では0.5-0.7の範囲で変動した。以上より、ミズゴケ個体群では、二酸化炭素吸収速度とクロロフィル蛍光計測から得られた光合成活性との対応が付かず、ミズゴケ個体群の光合成活性を正確に評価するためには、群集レベルでの二酸化炭素収支を実測する必要があることがわかった。
 次に、ミズゴケ生育地の水分環境と光合成活性との関連について調べた。クロロフィル蛍光計測によるFv/Fmの値は、自生地から採取を行った時期および採取地点による差がほとんど認められず、TDR水分計で計測した生育地の群集の水分条件との関連が認められなかった。二酸化炭素吸収速度の計測は、湿潤状態および乾燥状態にある自生地の個体群について、採取直後および密閉容器内で湿潤状態にて約3か月間栽培した後に計測を行った。5反復で採取した試料間に二酸化炭素吸収速度の著しい違いが認められなかったため、自生地の生育密度に合わせて実験的な群集を構成することで、光合成系と非光合成系の量比の違いによる計測値の変動は小さく制御することができた。湿潤状態で採取した試料では、2回の計測値の差は小さかったが、乾燥状態で採取した試料では、採取直後の計測値に対して湿潤状態で栽培した後に計測した値が有意に高くなった。これは、自生地における群集の水分含量が低く、個体が乾燥傾向にあったため、採取直後の二酸化炭素吸収速度が低い値を示したものと考えられる。このことから、湿潤状態での栽培で乾燥により活性が低下していた個体の生理活性が回復したものと考えられる。
 以上より、群集の水環境およびその変動の履歴が光合成活性に影響することが明らかとなったが、泥炭地における炭素収支を正確に把握するためには、水環境の経時的変化と、それに応答する植物―大気間でのガス収支を正確に評価する必要があり、両者の経時的な変化の長期間にわたっての計測データが必要である。
  
成果となる論文・学会発表等 Della Rahmawati, Hanny C. Wijaya, Yasuyuki Hashidoko, Gunawan Djajakirana, Akira Haraguchi, Toshihiro Watanabe, Kanta Kuramochi, and Asi Yanetri Nion (2017) Concentration of Some Trace Elements in Two Wild Edible Ferns, Diplazium esculentum and Stenochlaena palutris, Inhabiting Tropical Peatlands under Different Environments in Central Kalimantan. Eurasian Journal of Forest Research 20: 11-20

Azlan Kamari, Norjan Yusof, Hanisom Abdullah, Akira Haraguchi & Mohd Fahami Abas (2017) Assessment of heavy metals in water, sediment, Anabas testudineus and Eichhornia crassipes in a former mining pond in Perak, Malaysia, Chemistry and Ecology, DOI: 10.1080/02757540.2017.1351553

Zheng J, and Haraguchi A (2018) Inorganic nitrogen source for autotrophic growth of Euglena mutabilis Schmitz. Phycological Research DOI: 10.1111/pre.12211