共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
落下中の降雪粒子の融解過程を表現可能なバルク微物理モデルの開発 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 気象研究所 |
研究代表者/職名 | 室長 |
研究代表者/氏名 | 山田芳則 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
南雲信宏 | 気象研究所 | 研究官 |
2 |
川島正行 | 北大低温研 |
研究目的 | 雪やあられなどの降雪粒子の融解過程を適切にモデル化することは、天気予報での雨雪判別の精度向上だけでなく、融解過程に係わる現象(ブライトバンドやダークバンド等)の解明や着雪現象の予測等にとって重要である。これらの粒子の融解過程では、粒子の密度や落下速度などが融解の程度に応じて変化するが、現在の気象庁非静力学モデルでのバルク微物理モデルの融解過程では、潜熱と顕熱のバランスが考慮されているだけであり、融解過程を表現するには十分ではない。本研究の目的は、降雪粒子の融解過程での含水率や落下速度の変化等を表現できるようなモデルを開発して気象庁非静力学モデルに組み込み、その性能を評価することである。 |
研究内容・成果 | 降雪粒子の融解過程を表現可能なバルク微物理モデルの開発に際して、現行の気象庁非静力学モデル (JMA-NHM) でみぞれや雨氷など、融解過程が関与する現象の再現性について調べた。JMA-NHM内のバルク微物理モデルの雪粒子の融解は、蒸発凝結に伴う潜熱と顕熱とのバランスで決まる。本研究課題では、雪粒子の湿球温度で粒子の融解を判別するモデルも組み込んだ。湿球温度を用いることで、積もるみぞれとそうでない場合を判別できる可能性があるためである。水平解像度 5-km (1-km) の実験では、領域の広さは 2000 (1000) km 四方, 鉛直層数は 50 (60), 初期値と境界値に全球(メソ)解析を用いた。 東京でのみぞれの事例(2016年11月24日)を、現行モデルと湿球温度を用いたモデルによって水平解像度 5 km 実験を行った結果、雪や雨の分布には大きな違いは見られなかった。また、みぞれは房総半島の一部で表現されたが、東京都心では雪が卓越し、みぞれの表現はあまりよくなかった。 雨氷については2事例のモデル実験を行った。2016年1月29日長野県松本市付近で発生した雨氷被害の事例では、雨氷の予測可能性を水平解像度 5 km と 1 km のJMA-NHM によって調べた。予測可能性については、地上気温が氷点下で雨による降水量があり、かつ雪による降水量がない領域の有無を調べればよい。これらの解像度による実験では、いずれも雨氷の予測可能性が示された。また当日のアメダス観測地点(松本)で観測されていたみぞれ(午前3時から24時)は、1-km モデルではある程度は再現されていた。2016年2月14日に中標津町で発生した雨氷は、5-km 解像度モデルでは予測されず、1-km 解像度モデルでは表現されていた(予報時間7時間目での地上気温の分布(図1)、雨と雪による前1時間降水量(それぞれ図2と図3):図2のピンク色の線で囲まれた領域が雨氷に相当する:図の中心が中標津町)。 以上のように、JMA-NHMには雨氷の予測可能性があることを確認した。ただし、モデルの高解像度化が必要な事例があることがわかった。一方、みぞれはモデルの高度化が必要である。融解の計算が粒子全体で行われる現行モデルに代わり、粒子の大きさを考慮するビン法的な融解過程モデルを検討中である。 融解は雪片とあられでも異なるため、JMA-NHMでの雪片・あられの再現性検証のため2015年2月14日石狩平野の雪片・あられ混合降雪事例について250m解像度モデルとx-rain二重偏波データの解析も行った。この事例ではあられが卓越していたことが地上降雪観測とx-rainデータから示されているが、モデルではあられの割合は雪片の100分の1以下であったため、雲物理過程のさらなる改良の必要性も明らかになった。 |
成果となる論文・学会発表等 | 山田芳則、川島正行. 気象庁非静力学モデルによる雨氷やみぞれの予測可能性. 日本気象学会2017年度春季大会, P311, 2017年5月27日. |