共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

水クラスタービームの開発およびクラスター氷の構造解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 物質・材料研究機構
研究代表者/職名 ICYS研究員
研究代表者/氏名 植田寛和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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渡部直樹 北大低温研 教授

研究目的 水(氷)は,宇宙の星間雲や地球大気における多くの反応の促進剤として重要な役割を演じており,大気科学や星間科学の分野で広く研究されてきている.また,水は水素結合の性質から特異的な構造・相が存在し,基礎科学的に興味深い.本研究ではH2Oモノマーを含むクラスタービームの作成を目指し,その第一歩としてビーム中のモノマーの分光学的検出を試みた.
  
研究内容・成果 H2Oビームは,分子線技術を用いて希ガスに希釈された水を細い孔のあいたノズルを通して真空中に断熱膨張的に噴出することで内部温度が冷却され一部は凝集してクラスターとなり,ガスの流れの中心部分を円錐状のスキマーによって取り出すことで形成される.今回は,希釈ガスを用いず,室温の水蒸気のみを直接ビームラインに導入しH2Oのeffusive beamを作成し,多光子イオン化(REMPI)法によるH2Oモノマーの検出を試みた.実験は,これまでH2-アモルファス氷相互作用実験に使用していた分子線源と超高真空槽が組み合わさった装置で行われた.ビーム成分検出の前段階として超高真空槽にリークバルブにてH2Oを定常的に導入し,REMPI法によるH2Oの検出を試みた結果,真空槽内の1.1×10-5 Pa,4.8×10-6 PaのH2O分圧下ではH2Oの検出を確認できた.しかし,超高真空槽内に送られたビームに含まれるモノマーをREMPI法にて検出することはできなかった.このため,本研究で用いたeffusive beamに含まれるH2Oの密度は4.8×10-6 Pa以下であることが予想される.また,H2Oよりもイオン化断面積が大きいC2H2についても,真空槽でのガス充満実験ではC2H2は検出できたが,生成したeffusive beam中のC2H2については検出することができなかった.
 今回,ビーム中のH2O,C2H2を検出することはできなかった理由として,ビームの密度が検出限界以下に希薄であったことが原因だと考えられる.今後,研究を進めていくためにはビーム中のH2Oの密度を上げることが必要だと思われる.そのためにはビーム源である水を加熱し蒸気圧を上げ,ノズル内のH2Oの密度を高めることで改善できること考えられる.また,これまで過去のH2実験ではREMPIレーザーの出力が十分であったが,H2に比べて検出感度が劣るH2Oについてはさらなるレーザー出力が必要であると予想される.今回,検出効率を向上させるため,光路上でレーザー出力の損失箇所となるプリズムの使用数を減らしレーザー光路の再構築をし,光路内でのレーザー出力の損失を20%改善させたが,さらなる光路内での損失の低減できるような工夫が必要であると思われる.
  
成果となる論文・学会発表等