共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
核生成理論の検証と宇宙ダスト生成過程への応用 |
新規・継続の別 | 継続(平成27年度から) |
研究代表者/所属 | 北大低温研 |
研究代表者/職名 | 学振特別研究員 |
研究代表者/氏名 | 田中今日子 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
吉田敬 | 東京大学 | 特任研究員 |
2 |
野沢貴也 | 国立天文台 | 特任助教 |
3 |
空華智子 | 東京大学 | 特別研究員 |
4 |
田中秀和 | 東北大学 | 教授 |
5 |
木村勇気 | 北大低温研 | 准教授 |
研究目的 | 宇宙の固体微粒子(ダスト)は星の最終段階となる超新星、新星、晩期型星などから放出されるガスから生成される。ガスからどのような環境(圧力や凝縮温度)で、どのような構造やサイズのダストが凝縮するのかは核生成過程が支配する。また宇宙ダストは、さまざまな宇宙環境において、非晶質相(アモルファス)や結晶質相の状態をとることが観測により明らかになっている。これは宇宙環境においてダスト粒子がいろいろな熱的プロセスを受けていることを示す。宇宙ダストの進化の解明のために、様々な環境下での核生成過程を含めたダスト粒子の熱的進化モデルの構築が不可欠であり、これが本研究の目的である。 |
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研究内容・成果 | 今年度は特に以下の2つの成果を得た。 1. 近年、核生成や結晶成長のその場観察実験により詳細なデータの取得が可能になってきた。特に研究分担者が中心となり宇宙ダストの生成過程を模擬した核生成実験が行われており、均質核生成が起きる温度や圧力を同時に測定するその場観測に成功している(文献5)。地上実験だと重力による対流が生じるが,重力がほとんどない環境では対流を抑えた理想的な実験が可能である。本研究では2012 年に打ち上げられた観測ロケットS-520-28 号機による微小重力実験により行われた鉄の均質核生成実験の結果と理論との詳細な比較を行うことにより鉄の付着確率を求めた。その結果、これまで100%と考えられていた付着確率が,実は0.002%程度と非常に小さいことが明らかになった。これは,宇宙において金属鉄粒子の生成は非常に限定的であり、鉄の主要な存在形態は純粋な金属ではないということを示唆する。本成果はScience Advancesに掲載された(文献1)。 2.代表者らは精度の高い核生成理論モデルの構築をめざし、核生成の分子動力学(MD)計算を行ってきた。従来のMD計算は計算機上の制限から分子数が最大10万分子程度の小規模計算であり、扱える温度圧力は高過飽和状態に限られてきたが、我々は超並列計算機を用いて1億から10億のレナードジョーンズ分子(水分子に対しては4百万分子)を用い気相からの核生成過程や5億分子を用いた液相からの気泡の核生成などのMD計算を行い核生成理論の詳しい検証を行うことに成功した(文献2-4)。本研究では、これまでの研究結果を踏まえ、特にこれまで詳しく調べられてこなかったダストの結晶化過程についてモデル化を目指した。平成28年度ではレナードジョーンズ分子を用いた結晶化のMD計算を行った。粒子数、体積、エネルギー(NVE)一定の系で,凝縮核が結晶化するには長い待ち時間が必要なため, 数億ステップの計算を行った. その結果、3重点以下の温度で気相から液相への核生成および液滴からの結晶化という多段階核生成過程を観察することに成功した。生成されたナノ結晶は安定相ではなく、5回対称性を持つ正20面体と10面体の準結晶, 面心立方格子(fcc)に富む結晶,および六方最密重点構造(hcp)に富む結晶が混在していることなどが明らかになった。本結果は現在投稿準備中である. 本研究結果は固体ダストが凝縮する際に過冷却液滴を経ることを示しており、宇宙における液相の重要性を示している。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
[1] Y. Kimura, K. K. Tanaka, T. Nozawa, S. Takeuchi, & Y. Inatomi, 2017, Pure iron grains are rare in the universe,Science Advances, 3, e1601992 [2] Angelil, R., Diemand, J.,Tanaka, K. K., & Tanaka, H., 2015,Homogeneous SPC/E water nucleation in large molecular dynamics simulations, J. Chem. Phys., 143, 0640507 [3] Tanaka, K. K., Tanaka H., Angelil, R., & Diemand, J., 2015, Simple improvements to classical bubble nucleation models, Phys. Rev. E, 92, 022401 [4] Tanaka, K. K., Diemand, J., Angelil,R.,& Tanaka, H., 2014, Free energy of cluster formation and a new scaling relation for the nucleation rate, J. Chem. Phys., 140, 194310 [5] Y. Kimura, K. K. Tanaka, H. Miura, K. Tsukamoto,2012, Direct observation of the homogeneous nucleation of manganese in the vapor phase and determination of surface free energy and sticking coefficient, Crystal Growth & Design 12, 3278 |