共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

永久凍土コアを用いた凍土物性の詳細解析ならびに古気候復元への応用
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 国立極地研究所
研究代表者/職名 URA
研究代表者/氏名 末吉哲雄

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡邊達也 北見工業大学 助教

2

的場澄人 北大低温研 助教

研究目的  本研究課題では北極域や高山地帯で採取した永久凍土コアの物理化学分析とその比較から、凍土の物性・産状を定量的に把握し、各サンプリングサイトの永久凍土環境の違いを明らかにする。合わせて温暖化などの環境変化に対する応答の違いを明らかにするとともに,上記の分析から古環境情報を抽出する手法の開発を行う。永久凍土のコアは氷・土壌・岩石の混合物となるため、アイスコアと比べて扱いが難しく、分析手法も確立していない。凍土コアから環境情報を抽出し、高緯度・高山地域の環境変化の議論に活かすことは、新たなデータとして情報の空白を埋めるのみならず、凍土と周辺環境変化の相互作用について新たな知見を与えると期待される。
  
研究内容・成果 これまでに取得された3本の永久凍土コア(スバルバール諸島スピッツベルゲン島 2地点、富士山 1地点)について、研究分担者の渡邊助教(北見工大)の元でX線トモグラフィー(CTスキャン)による非破壊の分析を行った。3本のコアサンプルはそれぞれ特徴的な構造を持ち、性質が大きく異なることが明らかになった。同じスピッツベルゲン島のサンプルでも、サイトによって土壌中に析出する氷のサイズが異なり、一方にはアイスレンズ状の巨視的なサイズの氷が見られるが他方には見られず、大きく構造が異なっていた。この2サイトは数百mしか離れていない平坦地であり、どのような条件が氷の析出を制御しているかはまだ断定できない。
このトモグラフィーデータに基づき、サンプル中の含氷率を求めた。トモグラフィーの空間精度の制約により、土壌粒子間に存在する間隙水は検出できないため、含氷率は巨視的な氷が分布する場合にのみ求められた。また、土壌間隙水を無視しているため、真値に対しては過小評価していると考えられる。
3月に実施した研究打ち合わせにより、この氷の同位体分析の可能性を、技術的な側面を中心に検討した。不純物が多いため、融解したサンプルを事前に濾過する必要があり、化学分析と組み合わせた分析フローのデザインはさらに検討が必要と判明した。また、水安定同位体から抽出できる情報についても議論が行われ、d-excessの解釈などについて理論的な検討も含めて行う必要が有ることが確認された。
本共同研究により、水安定同位体分析を含めた、各種分析の可能性について技術的な可能性の検討が行えた点が成果である。一般に水安定同位体分析による古環境研究は不純物の少ないアイスコアを対象として技術開発が行われているため、不純物を極めて多く含む凍土サンプルの分析は新たなシステムを必要とする。今後の作業としては、水安定同位体分析の作業フロー検討を進めて実施に移す準備を行うとともに、結晶構造分析を行って実験系との比較を行い、析出氷の産状の違いがどのような環境要因に規定されているかを検討する。これらの情報を総合し、凍土コアから抽出できる環境情報について一定の知見を整理することを目指す。
  
成果となる論文・学会発表等 T.Saruya, T.Sueyoshi, T.Watanabe, A.Rempel, and H.Enomoto: Structure and distribution of ice lenses in artificial frozen soils and arctic-alpine permafrost, XI. International Conference on Permafrost 20 – 24 June 2016, Potsdam, Germany