共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北方林の更新維持機構の生態学的・遺伝学的解析
新規・継続の別 継続(平成17年度から)
研究代表者/所属 群馬大学社会情報学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 西村尚之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

戸丸信弘 名大院生命農学研究科 教授

2

中川弥智子 名大院生命農学研究科 准教授

3

坂本圭児 岡山大院環境生命科学研究科 教授

4

鈴木智之 東大院農学生命科学研究科 助教

5

赤路康朗 岡山大院環境生命科学研究科 大学院博士課程

6

原 登志彦 北大低温研

7

隅田明洋 北大低温研

8

小野清美 北大低温研

9

長谷川成明 北大低温研

研究目的 北海道に広く分布する北方林は,近年の急激な環境変動の影響を強く受ける生態系であることが明らかとなってきた.一方,北海道の亜寒帯針葉樹林の面積は明治時代以降の人為撹乱により大きく縮小したため,低温科学研究所の試験地である東大雪北方針葉樹原生林は,我が国でも極めて貴重な森林である.本研究課題は,平成17年から継続して実施している共同研究であり,北方圏の環境変動に対する北方林の役割を科学的に解明するために,北方林の更新維持機構を生態学的・遺伝学的に把握するための調査・解析を行っている.特に,本研究は,近年の気候変動に係わる北方林生態系の環境適応的特性の定量評価を目標としている.
  
研究内容・成果 28年度においては,低温研と群馬大学・名古屋大学・岡山大学等の共同により1999年から実施してきた北方林の樹種共存維持機構に影響を及ぼす要因を定量的に評価する研究内容の一つとして,低温科学研究所の試験地である東大雪北方針葉樹原生林において,樹種間における年気温変化による成長動態特性の違いを明らかにするための現地調査と解析を行った.低温科学研究所の試験地の東大雪北方針葉樹林にある原生状態林分内の面積2ha試験地の100m×100mの範囲において,また,過去に自然撹乱を被った遷移途中段階にある林分内の面積1haの固定試験区において,2016年9月に,樹高≧1.3mの樹幹を対象に,それぞれ,約1000本の毎木調査を行った.また,両林分の試験区内のサンプル樹木から,試験的に生長コアを採取して,年輪幅を測定した.原生状態林分では2016年におけるトドマツ,エゾマツ,アカエゾマツの生長量は,それぞれ2.00±1.81,1.73±2.31,1.72±2.00mm/年であった.また,遷移途中段階にある林分では,それぞれ,1.62±1.90,1.66±2.18,1.58±1.98mm/年であった.この結果,原生状態林分および遷移途中段階林分のどちらでも樹種間の胸高直径生長速度の統計的な違いは不明瞭であった.さらに,林冠木,下層木のそれぞれについても同様の結果が得られた.なお,これまでに調査された期間におけるトドマツ,エゾマツ,アカエゾマツの生長速度の違いについては,展葉時期にあたる春期の4〜5月の気温が関係することが推測されている.そこで,試験的にサンプルした年輪コアにより,2001〜2016年の15年間の各樹種の年輪幅と気温条件との関係について検討した.年輪幅の大きさに関係する気温条件として,前年8〜9月の気温,当年4〜5月や6〜7月の気温が関係していると想定して,年輪幅と気温条件との対応関係について調べた.その結果,いずれの時期においても各樹種の当年の年輪幅の増加量に,これらの気象条件が何らかの影響を及ぼしていることが推測された.加えて,これらの時期の気温条件における影響は,樹種ごとに異なっていると推察された.以上から,本研究では次の仮説が想定できることが示唆された.(1)前年8〜9月の気温は,光合成産物の蓄積に関係し,翌年の展葉量に関係しているかもしれない.(2)当年4〜5月の気温は,展葉時期に影響を及ぼし,1年の成長期間の長さを決定する要因となっているかもしれない.(3)当年6〜7月の気温は,展葉開始時期と展葉量の影響のもとに当年の成長速度の活発さを決定するかもしれない.なお,2016年は予定していた原生状態林分内に設置した面積2ha試験地の中央部分1ha区内におけるエゾマツ400個体から生育段階別に葉や内樹皮の採取を行うことができず,次年度以降に再度計画することとした.
  
成果となる論文・学会発表等