共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

過渡的加熱現象における星間固体氷の蒸発および固体氷上での有機分子形成
新規・継続の別 継続(平成26年度から)
研究代表者/所属 名古屋市立大学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 三浦均

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山本哲生 北海道大学 名誉教授

2

中本泰史 東京工業大学 教授

3

長沢真樹子 久留米大学 准教授

4

野村英子 東京工業大学 准教授

5

田中秀和 東北大学 教授

6

木村勇気 北大低温研

7

田中今日子 北大低温研

研究目的 星間空間や原始惑星系円盤には複雑な有機分子が存在しており,これらの多くはH2OやCOを主成分とする固体物質(以下,固体氷)上で合成されると考えられている。一方で,天文観測によって検出される有機分子は気相中に存在しているため,有機分子が多く検出される領域においては固体氷の加熱・蒸発が生じ,それに伴って有機分子が気相中に放出されていると考えられる。本研究課題では,星間衝撃波による固体物質の過渡的な加熱現象に注目し,固体氷の過渡的な加熱・蒸発過程および有機分子の化学反応について理論的な検討を行うことを目的とした。
昇華割合の衝撃波速度依存性。 様々な分子に対する10%昇華条件。黒線は各原始星の観測データから予想される衝撃波条件。 
研究内容・成果 今年度は,主に「固体物質表面に吸着した分子の昇華率」に関するテーマについて理論的な検討を行なった。また,これらの成果を元に,北大低温研にて研究打ち合わせを行ない,原始太陽系星雲における低温物質の進化について議論した。
近年,ALMA観測によって,原始星周囲においてSO分子輝線が局所的に増光していることが示された。2016年には,他の原始星において別の分子(メタノール,ギ酸メチル)からの輝線の増光が検出された。これらは,原始星形成の際,その周囲で形成されつつあるケプラー円盤の外縁部にエンベロープが降着することによって衝撃波が生じ,固体物質が加熱されることでその表面に吸着している分子が昇華している可能性を示唆している。しかし,分子が熱的昇華するのに必要な活性化エネルギー(脱離エネルギー)は分子ごとに大きく異なっており,これまで検出された全ての局所的輝線増光が降着衝撃波によって説明できるのかどうかは不明であった。本研究では,降着衝撃波による吸着分子の熱的昇華シナリオの検証を目的とし,衝撃波加熱の数値計算を実施した。特に,従来考慮されていなかった脱離エネルギーの分布の影響を系統的に調べた。星間空間に存在する固体物質はほぼ全て非晶質だと考えられているため,その表面は非一様な構造を持つと考えられている。この場合,表面には様々な吸着サイトが存在するため,そこに吸着する分子の脱離エネルギーは一定値ではなく,正規分布で近似できるような幅を持った分布を持つことが分子動力学計算によって示されていた。脱離エネルギーの分布を正規分布で近似した上で衝撃波加熱による分子昇華割合を計算したところ,分布幅が大きくなると,分子の昇華割合が何桁も大きくなることがわかった(図1。分布幅とは,分布の平均値で規格化した標準偏差を指す。ダスト半径0.01ミクロン,衝撃波前面ガス数密度10^8個/cm^3,温度換算した脱離エネルギーの平均値2600 Kの場合)。次に,衝撃波条件(衝撃波前面のガス密度,衝撃波速度)を変えて昇華割合を計算し,その結果を衝撃波ダイアグラムとしてまとめた。このダイアグラム上に,3つの原始星(IRAS 04368+2557, IRAS 04365+2535, IRAS 16293–2422)の観測結果から推測される衝撃波条件を重ねると,全ての系においてそこで観測されている分子輝線の増光現象が降着衝撃波によって説明可能であることが明らかとなった(図2。ダスト半径0.01ミクロン。Ed0は脱離エネルギーの平均値)。ただし,吸着分子の主なキャリアーは,典型的な星間固体物質サイズである0.1ミクロンよりも小さい必要がある。本成果は学術論文としてまとめられ,国際学術誌The Astrophysical Journalに受理された。
昇華割合の衝撃波速度依存性。 様々な分子に対する10%昇華条件。黒線は各原始星の観測データから予想される衝撃波条件。 
成果となる論文・学会発表等 [1] H. Miura, T. Yamamoto, H. Nomura, T. Nakamoto, K. K. Tanaka, H. Tanaka, and M. Nagasawa, accepted for publication in The Astrophysical Journal
[2] H. Nomura, D. Ishimoto, M. Nagasawa, K. K. Tanaka, H. Miura, T. Nakamoto, H. Tanaka, and T. Yamamoto, IAU General Assembly, Meeting #29, id.#2256952 (2015)
[3] 野村 英子, 石本 大貴, 長沢 真樹子, 田中 今日子, 三浦 均, 中本 泰史, 田中 秀和, 山本 哲生,氷微惑星衝撃波加熱のALMAによる観測的検証法,Japan Geoscience Union Meeting 2015, abstract PPS24-12
[4] M. Nagasawa, K. K. Tanaka, H. Tanaka, T. Nakamoto, H. Miura, and T. Yamamoto, Astrophysical Journal Letters 794, L7(5pp) (2014)
[5] K. K. Tanaka, T. Yamamoto, H. Tanaka, H. Miura, M. Nagasawa, and T. Nakamoto, Astrophysical Journal 764, 120 (2013)
[6] Y. Kimura, K. K. Tanaka, H. Miura, K. Tsukamoto, Crystal Growth & Design 12, 3278 (2012)
[7] K. K. Tanaka, H. Tanaka, T. Yamamoto, and K. Kawamura, J. Chem. Phys. 134, 204313 (2011)