共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物の凍結制御物質の検索と評価
新規・継続の別 継続(平成27年度から)
研究代表者/所属 東京大学農学部
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 石川雅也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐崎 元 北大低温研 教授

2

長嶋 剣 北大低温研 助教

3

古川義純 北大低温研 名誉教授

研究目的 耐寒性植物は、進化の過程で凍結温度下でも致死的な細胞内凍結を回避できるように、組織・細胞の水の凍結を制御できる各種凍結制御活性を各組織に獲得し、多様な種および組織・器官に固有の凍結戦略をもつに至ったと考えられる。耐寒性植物組織はこのような凍結制御活性物質の宝庫であることが判ってきた。本課題では、このような凍結制御活性・凍結制御物質を取り上げ、氷晶生成・成長等に対する効果を氷晶成長専門家の下に解析し、これらの活性機構や組織の耐寒性機構での役割等を明らかにする。本年度は、申請者の見出した氷核活性物質上での気相からの氷結晶生成の観察を試みた。
  
研究内容・成果  レンギョウ枝の凍結過程を観察すると、枝の外側からではなく、中心部にある髄の側面から凍結開始することが、赤外線サーモビュア観察から確認されている。枝髄にはシュウ酸カルシウム結晶一水和物が多数存在し、これが高い氷核活性を持つことが判っている。興味深いのは、髄そのものはシュウ酸カルシウム結晶を多数含む死んだ組織と多数の空隙によって構成されていることである。実際には、液体の水がほとんどないところが凍結開始している可能性が高い。髄内部の空間の湿度は生きている細胞や木部に周囲を囲まれているため湿度は高いことが想像される。シュウ酸カルシウム結晶上での氷晶生成はこれまで水中(液相)での高い氷核活性を確認していたが、気相(水蒸気)からの氷晶形成も確認する必要があると考えられた。このことを確認するため、自作の気相から雪結晶発生装置を使った実験をしてきたが、湿度コントロールが難しく、うまく実験できなかった。
 今回、佐崎氏の作成した高精度に内部飽和水蒸気量を制御可能な顕微鏡ステージを利用させていただき、シュウ酸カルシウム結晶上での氷晶生成観察の予備試験を行った。結晶観察は、レーザー顕微鏡で行った。時間の関係で、温度は―15℃で行い、飽和水蒸気量を変えて実験した。結晶を含む水をカバーガラス片上に微量滴下し、乾燥されたものをグリースで上部銅板上に貼り付け、下部銅板上の氷温度の両者を0.01℃精度で制御することで、内部の温度と飽和水蒸気量を制御して実験観察を行った。
シュウ酸カルシウム結晶附近での大きな雪結晶成長と多数の結晶周囲での過冷却水の凝結の両方が観察された。過冷却水のCondensationであることは、干渉縞が出ることや、となりの水滴と融合していくことから確認できた。Condensationは全体的に生じた。過冷却水の凝結はカバーガラス板のみでも生じる可能性があり、確認が必要である。また、様々な温度や飽和水蒸気量での観察実験や飽和水蒸気量附近での長時間が必要と考えられ、次年度以降、十分検討して実験観察をする必要がある。また、材料そのものや装置自体についても検討する必要がある。
  
成果となる論文・学会発表等 1.Ishikawa M, Ide H, Yamazaki H, Murakawa H, Kuchitsu K, Price WS, Arata Y (2016) Freezing behaviors in wintering Cornus florida flower bud tissues revisited using MRI. Plant Cell Environ 39, 2663–2675
2.石川 雅也,井出 博之,山崎 秀幸,村川 裕基,朽津 和幸,Price William,荒田 洋治(2016) MRI による凍結様式可視化解析法の有効性:アメリカハナミズキ越冬花芽の再解析 日本植物生理学会
3.石川雅也(2016)耐寒性植物組織にみられる凍結制御に関わる構造と機能 第61回低温生物工学会セミナー(招待講演)
4.Ishikawa M, Murakawa H, Yamazaki H, Kuchitsu K (2017) Visualization of freeze initiation in the pith of Forsythia stems using infra-red thermography第58回日本植物生理学会