共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	寒冷圏における生態系機能の評価に向けた微生物群集の機能プロファイリング手法の検討
新規・継続の別	新規
研究代表者／所属	東京大学大学院農学生命科学研究科
研究代表者／職名	講師
研究代表者／氏名	平尾聡秀

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	福井学	北大低温研

研究目的	近年、環境変動による寒冷圏の生態系機能の喪失が懸念されている。寒冷圏では微生物が生態系機能に大きな役割を果たしているため、寒冷圏生態系の保全には、環境変動が微生物群集の機能に及ぼす影響を評価する必要がある。申請者らは微生物ゲノム情報が急速に蓄積しつつあることに着目し、微生物群集の系統情報と機能遺伝子情報を組み合わせることによって、微生物群集の機能プロファイルを構築するというアイディアを得た。本研究では、微生物群集の機能プロファイリング手法を検討し、その有効性を検証することを目的とする。

研究内容・成果	流域環境が詳細に調べられている東京大学秩父演習林の荒川源流部の生態系を調査地とした。平成28年の夏季・冬季に、標高1，000 mの冷温帯林において、12地点から深度別に土壌を採取し、ゲノムDNAを抽出した。そして、真正細菌の16S rRNA遺伝子V4領域を対象としてMiSeqによるアンプリコンシーケンス解析を行った。得られた配列から微生物群集の分類群組成を決定した。また、分子系統樹を作成し、既知の機能遺伝子の系統樹上の分布と祖先形質復元法を組み合わせて、機能が不明な分類群の機能遺伝子組成を推定した。そして、分類群ごとに推定した機能遺伝子組成とその配列数から、微生物群集全体の機能遺伝子組成を推定した。また、環境情報として、森林の下層植生の種数・被度の測定と土壌pH・ECの分析を行った。そして、予測した機能プロファイルと環境情報の関係を分析した。その結果、土壌微生物群集は、Acidobacteria門・Proteobacteria門・Actinobacteria門・Verrucomicrobia門が優占していた。分類群の多様性は、深い土壌ほど小さく、夏季よりも冬季の方が有意に大きかった。一方で、機能遺伝子の多様性は、深い土壌ほど大きく、夏季よりも冬季の方が有意に大きかった。また、下層植生の被度が高いほど、物質循環に関わる機能遺伝子の多様性も有意に増加することが明らかになった。これらの結果は下層植生の被度の違いを機能プロファイリングによって検出できることを示唆している。一方、土壌微生物群集の分類群多様性は必ずしも下層植生の被度の違いに対応しておらず、土壌微生物群集の機能プロファイリングは、分類群多様性の変化を検出するよりも、生態系プロセスの評価に有用であることが示唆される。今後、環境変化に伴って変動する機能遺伝子群を特定することができれば、微生物群集の機能プロファイルを生態系機能の指標として、環境変動に伴う生態系の変化を検出し、寒冷圏の生態系保全に応用できると期待される。

成果となる論文・学会発表等	M. Fujii， T. Hirao， H. Kojima & M. Fukui (2016) Planktonic bacterial communities in mountain lake ecosystems. In: Structure and Function of Mountain Ecosystems in Japan. pp. 145-169， Springer.