共同研究報告書


研究区分 開拓型研究

研究課題

氷および関連物質の核生成から探る低温ナノ粒子の特異性の解明
新規・継続の別 開拓型(2年目/全3年)
研究代表者/所属 東北大天文
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 田中秀和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

稲富裕光 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授

2

荒木優希 神戸大学大学院理学研究科 博士研究員

3

灘浩樹 産業技術総合研究所 主任研究員

4

杉本敏樹 京都大学大学院理学研究科 助教

5

河野明男 海洋研究開発機構 技術研究員

6

三浦均 名古屋市立大学 准教授

7

木村勇気 北大低温研

8

日高宏 北大低温研

9

長嶋剣 北大低温研

10

千貝健 北大低温研

研究目的 所内分担者の木村は、共同研究推進部で、『低温ナノ物質科学』としての一分野を確立すべく低温ナノ粒子が示す特異な物性や新規現象を明らかにする研究をスタートさせた。本研究では、その第一歩として、低温ナノ粒子の生成法およびTEMによる観察手法を確立し、ナノスケール効果を考慮した理論モデルとの比較により、低温ナノ粒子の物理定数や物性値(表面自由エネルギーや付着確率など)を得ることを目的とする。その結果として、「ナノ雪」特有の性質や46億年前の原始太陽系星雲中に存在していた雪の特徴の解明を目指す。
独自に開発した均質核生成によりナノ雪を生成できる二重チェンバー 温度を変えることで、雪の昇華条件や再成長もさせられる自作の環境制御セルと高速位相シフト干渉装置 
研究内容・成果 1962年に日本で生まれた、ガス中蒸発法によるナノ粒子生成法を氷および関連物質に適用することで、宇宙の雪やナノメートルサイズの人工雪(ナノ雪)を実験室で再現できる独自の装置を作製した(図1)。本装置は、中谷宇吉郎氏以来の全く異なる発想の雪の再現装置である。干渉計の組み立ても終わっており、2年目中に最初の実験データが得られる予定である。並行して、実験室で生成したナノ雪を透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察できる、独自の試料ホルダーを北野精機(株)と共同で作り、低温透過電子顕微鏡システムを立ち上げた(1年目)。試料を真空下で130 K程度に保ったまま、雪の再現装置から、TEMまで搬送できる特徴を有している。また、本装置は温度制御ができ、超高真空状態のTEM中で加熱することで、ナノ雪が昇華する過程を観察可能である。
実験室で雪の再現実験をはじめるにあたり、まず天然の雪を知ることが重要であるとの考えから、中谷宇吉郎氏も行った大雪山系での雪の観察実験を、低温研としては18年ぶりに本格的に行った(2016年2月2-5日)。特に、雪が昇華する過程を偏光ハイスピードカメラとレーザー干渉計を組み合わせた装置で動的に観察する実験を新たに行い、樹枝状に成長した雪の枝方向の昇華速度と厚み方向の昇華速度の同時計測に初めて成功した。2年目となる本年度は、温度と水蒸気量を制御可能なセルを新たに持ち込み(図2)、結晶化の逆過程である昇華の様子を観察するのに加え、再成長させることで、雪の生成過程の解明や前述の疑問の解決につなげる。成長と溶解や昇華、蒸発が真に逆過程と言えるかは、今注目され始めている研究でもあり、まさに開拓研究であるといえる。この天然雪の観察実験に関しては、下記に示すように、新聞やテレビで多数取り上げられた。
沸騰時のナノ気泡の核生成を分子動力学計算で解明する研究も合わせて進めた。気泡の核生成も、粒子の核生成と同様にナノサイズ表面のエネルギーで律速されるため、両者を総合的に研究することで初めて核生成理論を確立できると期待される。我々が行ったレナードジョーンズ系における沸騰の分子動力学計算で得られた気泡の核生成率は、バルク表面エネルギーでは説明できず、ナノスケール効果を考慮する必要がある。今回、我々はナノスケールの曲率をもつ表面のエネルギーに対する確立した理論モデルを用いて再解析を行い、この理論モデルにより我々の分子動力学計算結果は非常によく再現されることを明らかにした。この理論モデルは、H2O系の沸騰や粒子核生成への応用も可能であり、今後その方向への研究発展が期待される。
独自に開発した均質核生成によりナノ雪を生成できる二重チェンバー 温度を変えることで、雪の昇華条件や再成長もさせられる自作の環境制御セルと高速位相シフト干渉装置 
成果となる論文・学会発表等 本年度分のみ
[1] K. K. Tanaka, et al., Reply to "Comment on 'Simple improvements to classical bubble nucleation models", Physical Review E 94 (2016) 026802(4pp).
[2] 木村勇気、核生成の理解に向けた結晶化初期過程の"その場"観察実験、『結晶成長の数理』第11回研究会、学習院大学、2016年12月17日. (招待講演)
[3] 木村勇気、Formation experiments of cosmic dust analogues in microgravity environments、第33回 Grain Formation Workshop、福岡市、2016年12月13日.
[4] Y. Kimura, In-situ observation studies of nucleation and dissolution processes, 16-ISSCG, Lake Biwa, Shiga, 2016年8月2-5日.
[5] 木村勇気、雪の昇華過程のその場観察と水・氷の均質核生成実験に向けて、低温物質の界面・ナノ現象ワークショップ2016、低温研、2016年7月13日.