共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
結晶核形成に及ぼす粘性と流れの効果 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 大阪大学大学院 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 吉村政志 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
冨永勇佑 | 大阪大学大学院 | 学生(修士1年) |
2 |
山形眞 | 大阪大学 | 学生(学部4年) |
3 |
木村勇気 | 北大低温研 |
研究目的 | 生物の体内を満たす体液は、条件や環境に応じて粘性を大きく変えることが知られており、通常は流れが存在する環境となっている。しかし、生体内での氷核生成に対する粘性と流れの影響に関する知見はほとんど得られていない。氷結晶の核形成を直接観察することは現在のところ技術的に大変困難である。そのため、本研究では、巨大分子であるために個々の分子を動的光散乱法で直接検出できるタンパク質(鶏卵白リゾチーム、以後HEWLと記述)をモデル物質として用い、溶液の粘性、および撹拌装置を用いた流れをパラメータとして核生成に与える影響を調べることで核生成過程の理解につなげることを目的とする。 |
研究内容・成果 | 低温科学研究所での本実験の前に、簡易な光散乱法を用いて、タンパク質溶液中での結晶核発生が、溶液流れの有無でどのように変化するかを調査した。タンパク質溶液の条件は、リゾチーム濃度25 mg/ml、NaCl濃度(結晶化促進剤の役割を果たす)3%、Bufferは0.1 M NaAc(pH4.5)とした。この溶液の粘度はおよそ0.036Pasであった。溶液は角柱セルに封入した。結晶の核数を光散乱で確認された輝点数に対応すると仮定し、静止画像の一定面積に見られる輝点数を数えることでデータを得た。その結果、静置条件において、結晶核は増減を繰り返しながら徐々に増加し、溶液を調整してから1000分後に200個/cm2程度(最大時)となった(図1)。これに対して撹拌条件(回転による流れ発生で、シェイカー回転数50 rpm)において、結晶核は同様に増減を繰り返しながら増加したが、その増加速度は静置条件よりも遅く、1000分後に100個/ cm2程度(最大時)であった(図1)。これは静置条件の50%程度であり、適度な流れが存在すると、結晶核発生が遅れ、かつ個数も少なくなることが示された。 上記結果を踏まえ、ELS-Z1TK(動的光散乱装置)によってより粘性の高い溶液中における核発生初期の観察を試みた。タンパク質溶液にアガロースゲルを0.5wt%添加し、粘度=21Pasの溶液を準備した。リゾチーム濃度は50 mg/ml、NaCl濃度3%、Bufferは0.1 M NaAc(pH4.5)とした。予備実験と同様、静置条件と撹拌条件(ロータリーシェイカーで50rpm)の2条件を測定した。図2に、静置条件の測定結果を、図3に流れを与えた条件での測定結果を示す。どちらも粒径と散乱強度分布のグラフの経時変化を表している。リゾチーム1分子のサイズはおよそ3nm程度であり、測定開始時(図2(a)および図3(a))に見られるピークはおおよそリゾチーム単分子に該当すると考えられる。静置条件(図2(a)〜(f))では、時間経過と共に粒径分布がブロードとなり、100分後には100nm程度の粒子を中心に8000 nm程度の粒子まで確認された。一方、撹拌条件でも時間経過とともに粒径が大きくなっていく傾向が見られたが、その増加の傾向は静置条件とは違って緩やかであり、100分後の粒径分布は100 nm以下の範囲にとどまった。測定時間は100分ほどで、核発生のごく初期のみの観察ではあったが、粘性が比較的高い条件(粘度21 Pas)においても、撹拌操作の影響によって結晶の核発生が遅れ、初期の結晶核の成長が緩やかになることが確認された。 |
成果となる論文・学会発表等 |