共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	火星北極冠上のステップ地形の発達に関する実験的研究
新規・継続の別	継続（平成23年度から）
研究代表者／所属	大阪工業大学情報科学部
研究代表者／職名	教授
研究代表者／氏名	横川美和

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	泉典洋	北海道大学工学研究科	教授
2	山田朋人	北海道大学工学研究科	准教授
3	グレーベ　ラルフ	北大低温研

研究目的	火星北極冠には螺旋状のステップ地形が発達しており，レーダーの反射面から得られた内部構造はこれらのステップが“上流側”に移動しながら累重している事を示している．内部構造は発達過程の記録であり，この記録を読み解く事によって，これらの構造を作った営力（風など）の火星史を通じた変動を復元できる可能性がある．本研究は，火星北極冠に見られるスパイラルトラフの累重構造をアナログ実験で復元し，数学モデルの構築・理論解析と伴に，その形成過程を明らかにすることを目的とする．

研究内容・成果	前年度までは主に氷と流体の界面に界面波が発達する条件を模索する実験を行っていた．様々な実験条件で界面波は発達するものの，それを累重させることは難しかった．そこで，本年度は界面波の上に氷を累重させることを目的とした実験を行う事にした．　火星の北極冠上の画像を解析したSmith et al. (2013)などによれば，スパイラルトラフを形成していると推定されるカタバ風の跳水現象は，火星の夏に観測されている．これは言い換えれば，カタバ風によって界面波が形成されているのはこの跳水が観測される夏季のみで，それ以外の時期は形成された界面波の上に着霜して氷床が上方に累重している可能性もある．流体が流れない時期（火星で言えばカタバ風が吹かない時期）に氷床を上昇させることが簡単な実験で再現できるかどうかを調べることが今回の目的である．　火星ではカタバ風に含まれる水蒸気が着霜することによって氷床が累重し，カタバ風によって昇華がおこれば侵食となる．実験では，シリコンオイルに水を混ぜた流体を氷床の上に配し，スターラーで撹拌する時(カタバ風が作用している時)とスターラーを停止したとき（カタバ風が作用していない時）を交互に繰り返す．　実験装置と手順は以下の通りである．(1)アクリル製の正方形の水槽(25cm×25cm)に高さ4cmほどの氷床を作る．(2)その上に水を混ぜたシリコンオイルを入れて，スターラーで撹拌する．(3)表面に地形が形成されたら，撹拌を止め，液体を取り去って，氷表面の地形をポイントゲージで測定する．(4)つぎに室温を氷点より低くし(-3~-10℃程度)，場合によってはこの時にシリコンオイルに1割程度の水を混ぜ，スターラーを止める．(5)氷が形成されて氷床が上昇したら，(3)(4)を繰り返す．この間，側面から氷の高さおよびプロファイルをカメラで撮影して測定する．　実験の結果，以下のことがわかった．(1)シリコンオイルの流れ(回流)によって氷床表面に波状地形が形成された．室温が氷点より高い場合は，徐々に氷が融けながら地形を形成するので，表面の高度はだんだんと下がっていく．室温が氷点よりも若干低い-1℃程度の時には，死水領域では氷が付着してもともとの氷表面よりも高くなる現象も見られた．(2)スターラーを回転させる時間と停止させる時間を交互に設けると同時に，シリコンオイルに混ぜる水の量を増やすと，スターラーの回転時(流れが作用している時)には波状の地形が形成され，停止時（流れが作用していない時）には波状地形を覆って氷床が累重して氷表面が高くなるということが繰り返される．この氷の“堆積”と波状地形形成の組合せによって“堆積構造”が形成され得る．

成果となる論文・学会発表等	論文横川美和（2016），氷上のサイクリックステップ-火星北極冠のスパイラルトラフとアナログ実験-，地学雑誌，125号，91-106．学会発表 YOKOKAWA， M.， IZUMI， N.， NAITO， K.， YAMADA， T.， GREVE， R.， Cyclic step on ice: experiments and theoretical study aiming to spiral troughs on Mars’ North Polar ice cap. 地球惑星連合大会，2015年5月29日，幕張．横川美和・泉　典洋・内藤健介・Parkar，G.・山田朋人・Greve，R.，氷上のステップ地形の発達：理論解析とアナログ実験の比較，日本堆積学会2016年福岡大会，2016年3月6日，福岡泉　典洋・横川美和・角田尭史・石黒友紀，乱流域の流水によって氷上に形成される界面波，日本堆積学会2016年福岡大会，2016年3月6日，福岡