共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ラジカルの低温氷での化学反応過程
新規・継続の別 継続(平成25年度から)
研究代表者/所属 九大院総理工
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 薮下彰啓

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川崎昌博 名大STE研 客員教授

2

渡部直樹 北大低温研

3

羽馬哲也 北大低温研

研究目的 木星の第2衛星であるエウロパでH2O2が観測されている。エウロパはH2O氷に覆われた衛星であり、高い放射束にさらされている。このような条件化でH2O2が確認されることは予測されていたことである。しかし、H2O2が存在する量はH2Oと比較すると1%未満しかなかった。ラボ実験室では容易に検出することができるH2O2が宇宙空間においてはあまり観測されないことはH2O2の分解反応の存在を示唆している。本研究ではこのH2O2の光分解反応に着目し、その光分解断面積や光化学反応機構を明らかにすることを目的として研究を行う。
  
研究内容・成果 O2とHを45 Kのアルミ基板上に同時照射することにより、ほぼ純粋なアモルファスH2O2氷薄膜を作成した。さらにこの氷を約175 Kでアニールして多結晶H2O2氷薄膜を作成した。これらの構造の異なる2種類のH2O2氷薄膜について、10 K, 45 K, 90 K, 130 Kの各氷温度において、重水素ランプ(120 nm - 400 nm、ピーク波長125 nm, 160 nm)を照射し続けた際のH2O2, H2O, O3, HO2, HO3の生成量を赤外反射吸収分光法により測定した。これまでに実験はほとんど完了していたので、今年度は主に得られているデータの再解析を行いこれまでの結果について議論し論文の執筆を行った。その内容について述べる。
測定した温度において、アモルファスH2O2の光分解断面積は 〜 8 x 10^-18 cm^2、多結晶H2O2は 〜 4 x 10^-18 cm^2であった。気相H2O2の吸収断面積は、125 nmと160 nmにおいて〜 1 x 10^-17 cm^2・molecules^-1と〜 4 x 10^-18 cm^2・molecules^-1であり、光分解断面積と近い値となっている。このことは、H2O2の光分解による生成物が2次的にH2O2を分解するような反応はほとんど起こっておらず、H2O2は主に光によって分解されていることを示している。
先行研究(Loeffler et al. Icarus, 2013)では、21 Kから145 KにおいてH2O2/H2O混合氷に193 nmの光を照射した際の光分解断面積は1 – 6 x 10^-19 cm^2 程度であり、我々の結果より一桁小さい。これは、193 nmにおける気相H2O2の吸収断面積は〜 1 x 10^-18 cm^2・molecules^-1であり、我々の光源の波長範囲での吸収断面積と比較して約1桁小さいためであると考えられる。
光照射初期では照射量に従ってH2O2は急激に減少するが、30分以上ではほとんど減少せず数割程度残ったままとなった。これはバルク中で光励起したH2O2が周りをH2OとH2O2に囲まれているために分解せずに緩和するためであると考えらえる。またその残存割合は多結晶H2O2の方がアモルファスH2O2と比較して多かったことから、多結晶の方がこの効果が高い構造であると考えられる。H2Oについて、光照射初期では照射量に従ってH2Oは急激に上昇するが、30分以上ではほとんど増加せずほぼ一定の値となった。H2OについてもH2O2と同様の現象が起こっていると考えられる。
H2O2に光を照射するとH2O, O3, HO2, HO3が生成した。それぞれの生成量の光照射量依存性、温度依存性を測定した。これらの結果と2次反応がほとんど起こっていないことから、次のような光化学反応が進行しているのではないかと考えている。
H2O2 + hv → 2OH
OH + OH → H2O + O
H + O2 → HO2
OH + HO2 → H2O + O2
O2 + O → O3
OH + O2 → HO3
H + O3 → HO3
  
成果となる論文・学会発表等 特に無し