共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

極低温原子間力顕微鏡によるアモルファス氷構造のナノスケール空間分解能解析
新規・継続の別 継続(平成26年度から)
研究代表者/所属 東大院新領域創成科学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 杉本宜昭

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

日高宏 北大低温研 助教

2

香内晃 北大低温研 教授

研究目的 分子雲内には,氷星間塵というサブミクロンサイズの鉱物微粒子の周りをアモルファス氷で覆った氷微粒子が存在している.星・惑星形成の初期段階では,この氷微粒子の合体成長が重要な過程である.また,この氷星間塵上で生じる化学反応は,分子雲内での分子の複雑化に必要不可欠であることもわかっている.宇宙物理化学におけるこれら二つの重要な過程においてアモルファス氷の表面構造は重要な役割を果たす.しかし,その構造は結晶のように規則的な構造でないため,これまでよく解っていなかった.そこで,本研究では,極低温原子間力顕微鏡を用いた実空間形状測定により,アモルファス氷表面の構造を明らかにすることを目的とする.
  
研究内容・成果 アモルファス氷表面構造観察:蒸着法依存性
 前年度は,冷却したSi(111)基板表面に入射角60°でH2O分子線を入射させることにより生成されたアモルファス氷構造とその温度(45、105K)と膜厚(3, 20 , 40nm)依存性を明らかにした.本年度は,入射角60°の分子線入射による氷製作法と充満法による氷製作法による氷構造の違いを明らかにすることを目的として実験を行なった.氷へガス分子を蒸着し,その蒸着量から氷の表面積を推定するという方法により上記二種類の方法で製作された氷の表面積はほぼ等しいという先行研究があるが,表面積が等しいからといって構造が同じであるとは限らない.原子間力顕微鏡による実空間測定により初めて構造の違いが明らかになる.
 図1に,45Kに冷却したSi(111)基板上に,入射角60°および充満法により作成したアモルファス氷の形状測定の結果をそれぞれ示す.図中に示してある白線部分での高さプロファイルをみると,充満法により製作されたアモルファス氷の方が,凹凸が小さく比較的フラットな構造をしているように見える.この特徴が,たまたま選んだ白線の位置のせいなのか,形状像全体の特性なのか調べるために,Height-height correlation functionを用いて形状像を評価した.図2をみると,明らかに入射角60°で生成されたアモルファス氷の方が,任意の二点間の高低差が大きい事が示されており,取得された形状像全体の傾向として,充満法で生成されたアモルファス氷の表面形状の方がフラットであるということが示された.原子間力顕微鏡によって測定された形状像から表面積を出すことは,カンチレバーの先端が氷構造の奥まで到達できている保証がないため,正確な見積もりが出来ている保証はないが,入射角60°で作成されたこおりと充満法の氷のさはわずか5%ほどであり(充満法の方が小さい),先行研究と同様にほぼ等しい値である.
 以上,蒸着法による表面形状像の実空間測定で得られた結果を示したが,今回の測定データに疑問点がある.前年に入射角60°蒸着法で製作されたアモルファス氷の表面形状データと比べて,今回のデータは表面の凹凸が大きい.原子間力顕微鏡で表面形状を測定する際,測定する力の大きさが異なると,得られる形状の凹凸具合も異なるため,形状像比較をするためには,測定する力の大きさを等しくする必要がある.しかし,力はカンチレバーのバネ定数,周波数シフト量,振幅と様々な量に依存する.測定で用いるカンチレバーは個体差があり,バネ定数が全く等しい物はない.よって,等しい力で測定を行なうのはかなり困難なことである.しかしながら,上記得られた結果が正しいものなのかを評価するためには,同一カンチレバーを用いて,同振幅,同周波数シフト量で検証実験を行なう等の必要がある.今後,より詳細な実験を行ない,蒸着法による表面形状の違いを明らかにしていく予定である.
  
成果となる論文・学会発表等 Hiroshi Hidaka,Yoshiaki Sugimoto, Syunichi Nakatsubo, Naoki Watanabe, Akira Kouchi,「Observations of amorphous solid water by non-contact atomic force microscopy」,Astrophysical Ice in the Lab,2016年3月7日,Madrid, Spain