共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

永久凍土地下氷の物理化学解析:エドマの構造および形成過程解明に向けて
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北見工業大学
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 大野浩

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

堀彰 北見工業大学 准教授

2

八久保晶弘 北見工業大学 教授

3

南尚嗣 北見工業大学 教授

4

内田昌男 国立環境研究所 主任研究員

5

岩花剛 アラスカ大学フェアバンクス校 研究員

6

曽根敏雄 北大低温研

7

飯塚芳徳 北大低温研

研究目的  北極圏永久凍土地帯には,エドマと呼ばれる極端に含氷率の高い堆積層が,地表部分に広域にわたって発達している.
 永久凍土の融解が引き起こす今後の環境変化を予測したり,エドマ試料から抽出した古気候情報を正確に解読したりするためには,先ずエドマ層の基本的な性状や由来を理解する必要がある.しかしながら,エドマの主要構成要素にも関わらず,地下氷の構造に関する研究は,その他の堆積物(土壌)に対する調査に比べて限定的である.
 本研究では,実験室ベースで永久凍土地下氷の精密な構造解析を行い,実験で明らかになった氷の結晶学的・物理化学的な特徴からエドマ層の形成プロセスや履歴を推定することを目的とする.
図1 典型的な縞状氷の鉛直厚片写真(a),結晶主軸方位のシュミット投影図(b),結晶方位差分布(c)  
研究内容・成果 1.方法
 アメリカアラスカ州フェアバンクス近郊の永久凍土トンネル(CRREL's Permafrost Tunnel)で採取された永久凍土地下氷塊に対して,通常の可視光観察(光学顕微鏡観察および薄片偏光観察)に加えて以下のX線回折実験を行った.
 低温試料用結晶全方位アナライザーを用いて,地下氷多結晶体を構成する各氷単結晶の完全方位を決定した.得られた氷結晶方位データに対して統計解析を行い,結晶方位の分布や隣接粒子間の結晶方位差(misorientation angle)を調べた.また,回折X線のロッキング・カーブ測定を行い,その線幅から氷試料に含まれる欠陥(転位)の密度を見積もった.

2.結果と考察
 調べた地下氷塊のほとんどは,概ね鉛直に並んだ堆積物からなる縞模様(フォリエーション)を有することから(図1a),アイスウェッジ(氷楔)であると考えられる.これらの氷体の結晶粒は,大体数ミリメートルの大きさで,フォリエーションの方向に若干伸長した形を持つものが多い.
 アイスウェッジと思われる多結晶氷の結晶主軸(c軸)方位は単極大型の分布を示し(図1b),その卓越方向はフォリエーションに対してほぼ垂直であった.フォリエーションの分布はアイスウェッジ発達過程における熱収縮破断面に対応するので,観察された結晶方位分布はアイスウェッジ形成時に受けた応力場に起因するものと考えられる.また,結晶主軸方位角度差の小さな隣接粒子が統計的に多数観察されることから(図1c),再結晶によって盛んに小角粒界が生成(polygonization)していると思われる.
 縞状氷に含まれる結晶転位密度はおおよそ10^10〜10^11 (1/m^2)で,氷河氷のそれと同程度のオーダーであった.この事実は,縞状地下氷(アイスウェッジ)が相当な変形を経験していることを示唆している.

3.今後の予定
 異なる縞状氷間はもちろん,同一氷体内でも部位によって系統的に結晶性が異なるのか今後調べる.アイスウェッジ起源ではないと予想される地下氷塊についても,比較研究のため解析を進める.
 また,装置の不調等の理由で立ち遅れている地下氷の化学分析についても,今後研究を進める.
図1 典型的な縞状氷の鉛直厚片写真(a),結晶主軸方位のシュミット投影図(b),結晶方位差分布(c)  
成果となる論文・学会発表等 学会発表
永久凍土大規模地下氷の結晶性,大野浩,岩花剛,堀彰,宮本淳,飯塚芳徳,八久保晶弘,南尚嗣,内田昌男,ラリー・ヒンズマン,曽根敏雄,雪氷研究大会,P1-10,長野県松本市,2015年9月.