共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

すり抜け雪崩の原因となる降雪結晶形毎の安息角の測定実験
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 防災科学技術研究所
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 中村一樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

的場澄人 北大低温研 助教

研究目的  2014年2月14〜16日にかけて通過した南岸低気圧により,東日本の太平洋側を中心に広い範囲で降雪となった.この大雪に伴い,関東甲信地方や東北地方では,数多くの表層雪崩が発生し,大きな被害が発生した.現地調査の結果,冬型の気圧配置で降る日本海側の雪の結晶(雲粒が付いて形が複雑)に比べ,雪崩を引き起こした低気圧性の層状雲から降る雪の結晶は形状が比較的単純であり,サラサラして崩れやすく,安息角が小さいという特徴を有していることが示唆された.このことから南岸低気圧の降雪による雪崩対策を行う上で,雪結晶形毎の安息角の値の把握は重要であるが,これまでこの値の測定はほとんどなされていないため,本研究を実施する.
各条件下での安息角の測定結果  
研究内容・成果 1.方法
 2016年2月15日と17日の2回,北海道大学低温科学研究所敷地内で積雪表層の新雪を採取した.低温実験室内で,採取した雪をふるいでふるって直径10cmの金属製の円の上に十分に積もらせ,安息角を測定した.-4℃前後と-15℃前後の2つの温度条件で,ふるいの目の内径は,0.85mm,2mm,4mmとした.したがって,同じ雪に対して,温度とふるいを変更し,6つの条件で安息角測定の実験を実施した.
2.実験に用いた雪粒子の特徴
 2016年2月15日に採取した雪(実験1用新雪)は,表層0〜4cmの新雪で一部こしもざらめ化しており,密度は120kg/m^3であった.一方,2月17日に採取した雪(実験2用新雪)は,表層0〜3cmの新雪で,密度は,90kg/m^3であった.いずれも,冬型の気圧配置による降雪で,雲粒が付着しており,あられやあられ状雪、濃密雲粒付結晶も混在していた.
3.実験結果と考察
 2月15日に採取した新雪を用いた実験を実験1とし,17日に採取した新雪を用いた実験を実験2として,2つの温度条件下で,3種類のふるいを用いて雪を積もらせ,それぞれ安息角を測定した.
 その結果,実験1,実験2とも,温度が高い方が安息角が大きくなるという共通の特徴が見られた.このような特徴は,温度が高いほど雪粒子同士が付着し易くなるという雪の一般的な性質に合致する.また,実験1,実験2とも,ふるいの目の内径が2mmと4mmの場合の安息角はほぼ同じ値となり,ふるいの目の内径が0.85mmの場合の安息角が2mm,4mmに比べ大きくなった.このような特徴と雪粒子の形状の写真を併せて考察すると,ふるいの目の内径が2mmと4mmの場合は,あられやあられ状雪等を含む丸い塊状の雪粒子が破壊されずにそのまま積もるが,ふるいの目の内径が0.85mmの場合は,丸い雪粒子が破壊されて,枝など引っかかりやすい形状で積もるため安息角が大きくなることが示唆される.
 雪崩危険度の予測につなげるには,積雪モデルに雪粒子の崩れ易さの指標を組み込むことが必要になる.つまり,雪粒子の形状と雪の崩れやすさの関係を定量的に示すことが必要になる.今後は,温度条件も考慮し,雪粒子の形状の特徴を示す指標として有力である比表面積SSAと安息角の関係を明らかにするための実験が必要になると考えられる.
各条件下での安息角の測定結果  
成果となる論文・学会発表等