共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

酸素安定同位体比測定を用いた森林生態系における炭素循環の解明
新規・継続の別 継続(平成23年度から)
研究代表者/所属 産業技術総合研究所
研究代表者/職名 研究グループ付
研究代表者/氏名 村山昌平

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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渡辺力 北大低温研 教授

研究目的 本研究では、大気中CO2の酸素安定同位体比の変動原因に光合成・呼吸それぞれの変動が深く関わっていることを利用して、酸素安定同位体比の精密観測を基に18Oの収支をモデル化し、タワー観測により測定される正味のCO2交換量を光合成と呼吸および葉呼吸と土壌呼吸に分離評価する手法を確立する。
  
研究内容・成果 岐阜県高山市の乗鞍山麓にある冷温帯落葉広葉樹林観測サイトにおいて、これまでに得られたCO2・H2O・熱フラックス、CO2濃度、CO2および水の酸素安定同位体比(d18O)、気象・土壌環境要素等のデータの解析を進めた。並行して、群落微気候モデル(MINCER)に、同位体過程を組み込み、大気-森林間のCO2フラックスや群落内大気中のCO2のd18Oの動態を再現できるモデルの改良を進めた。
H26年度までに行ったd18Oの観測データを用いた生態系呼吸を土壌呼吸と葉呼吸に分離評価する解析から、春〜初夏にかけて葉呼吸の割合が減少し、夏〜秋は土壌呼吸が生態系呼吸の大部分を占める季節的変化傾向が各年で見られ、フラックス観測に基づく経験式から推定される結果と傾向は概ね一致した。しかし、生態系呼吸に対する土壌呼吸の比が1を超えることがある等、異常な値が計算されることがあるため、葉呼吸のd18O値の推定法に関して、引き続き文献調査等を行って改良を試みたが、改善は見られなかった。一方、葉呼吸の推定には、大気中CO2濃度やd18Oのデータを用いているが、夜間の斜面下降流が卓越した場合等に森林外の影響を受けたデータが解析に含まれている可能性があり、詳細な解析を行ってその影響を除く必要がある。また、フラスコサンプリングによる離散的なd18Oの観測では、短時間スケールの変動を十分に捉えられていない可能性があり、近年普及しつつあるレーザ分光法を用いた同位体分析計による連続観測の導入が期待される。
一方、MINCERによるシミュレーションでは、昨年度までの研究において、大気-森林間の正味のCO2フラックスはほぼ再現されることが確認されている。また、モデルのパラメタを一切調整しなくても、CO2濃度とその同位体比の時間・高度分布をうまく再現できる場合がある一方で、CO2濃度と同位体比の高度方向への変化幅が夜間に過大、日中に過小に評価される場合もあった。モデルによる再現がうまくいかない最も大きな原因は、森林内の乱流拡散過程が適切に再現されていないことにあると考えられる。そこで、モデル内部で診断される渦拡散係数を0.1倍から3倍の範囲で変化させ、CO2濃度の計算値と実測値との差が最も小さくなるように値を調整したところ、CO2濃度ばかりでなくd18Oの高度分布も良好に再現されるようになった。このように、正味のフラックスだけでなく、CO2濃度やd18Oの高度分布も再現されるという状況の下では、モデル内で計算されている光合成や呼吸の時間・高度変化も現実と整合的に再現されていると考えられる。したがって、今後の研究展開として、群落内外におけるCO2濃度の実測データをモデル計算に同化することにより、同位体比の高度分布を再現しながら、光合成と呼吸を分離評価する方法が有望である。
  
成果となる論文・学会発表等 村山 昌平、渡辺力ほか、酸素同位体観測により推定された飛騨高山冷温帯落葉広葉樹林サイトにおける夜間の生態系呼吸に対する土壌呼吸の割合の季節変動、日本地球惑星科学連合2015年度連合大会(招待講演)、千葉市、2015/5/25.