共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
寒冷地におけるブロンズ表面析出物の分析と生成機構 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 札幌芸術の森美術館 |
研究代表者/職名 | 学芸員 |
研究代表者/氏名 | 宮城加奈子 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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古川義純 | 北大低温研 |
研究目的 | 寒冷地におけるブロンズ表面に見られる白色析出物質の生成メカニズムを明らかにし、今後の対策を検討および提案することを最終目的とした。 本研究の契機は、札幌芸術の森野外美術館のブロンズ作品表面に見られる白色結晶物質の存在である。白色を呈する結晶物質は、作品設置後から現在に至るまで、深緑色のブロンズ表面上に頻繁に確認されており、ブロンズと白色結晶物質のコントラストが非常に目立ち美観を損ねていることが問題視されてきた。結晶の除去後も析出し続けているため、今後の対策を検討しなければいけないが、まずはブロンズ表面に発生した白色結晶物質の組成および発生・成長のメカニズムを解明する必要がある。 |
研究内容・成果 | 札幌芸術の森野外美術館に40点程設置されているブロンズ作品のうち、表面に白色結晶物質が析出している作品は2作家4作品(平成28年3月現在)。そのうちの2作品にみられる白色析出物を採取し、分析対象試料とした。試料の分析においては大友陽子研究員(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門 資源循環工学分野 環境地質学研究室)に協力を得た。以下に分析結果および考察を記す。 まず、分析対象試料である白色結晶状物質をSEM-EDX観察(島津製走査電子顕微鏡 SSX-550使用)したところ、主に硫酸カルシウムおよび硫酸ストロンチウムの結晶で構成されていることが分かった。硫酸カルシウム結晶は直径~100μm の短柱状であり、しばしば表面に直径約10μm の硫酸ストロンチウム結晶を付着させていたという。硫酸カルシウムの検出理由としては、ブロンズの鋳造工程で使用する石膏に由来しているものと推測できる。ブロンズ彫刻を制作する場合、粘土で塑像した後に石膏で型(外型)をとる。鋳造時には、この外型と砂や粘土などで作った中子型の間にブロンズが流し込まれる。よって、鋳造作業終了後、ブロンズ表面に石膏が付着しているケースはあっても内側に石膏が付着しているとは考えにくい。結晶の析出が継続的であるということからも、中子型に石膏が用いられていた可能性を考えるのが妥当と思われる。 また、同試料は白色部のほか緑色を呈する部分も含まれている。この緑色部分を対象としたSEM-EDX観察の結果、Cu が検出された。これより、肉眼観察下で確認した緑色析出物はプロシャン銅鉱 [Cu4 (SO4) (OH)6]もしくは緑青の可能性がある。いずれにしても、Cuはブロンズを構成する主成分であるため、その析出は像そのものに由来しているものと考えられる。 今後は引き続き、同様な結晶の析出事例を調査するとともに、今回対象となったブロンズ作品制作で用いられた中子型の詳細について、鋳造所に聞き取りを行うなどして制作当時の状況調査も行うこととする。 |
成果となる論文・学会発表等 |