共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

高精度レーダ降雪強度推定に向けた降雪粒子の立体形状と誘電率データベースの開発
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 名古屋大学宇宙地球環境研究所
研究代表者/職名 技術専門職員
研究代表者/氏名 民田晴也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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藤吉康志 北大低温研 教授

研究目的 雪など固体降水粒子の立体形状と誘電率、粒径分布および観測レーダ反射因子のデータベースを作成することで、固体粒子のマイクロ波散乱問題を解決、高精度レーダ降雪強度推定の経験式導出につなげる。立体形状は散乱計算によるレーダ反射因子厳密解を得る目的のほか、降水粒子の種別分類(雪や霰など)や等価直径算出に有効である。種別毎の粒径分布分離は、種別毎の後方散乱断面積を与え粒径分布で積算することで、レーダ反射因子の近似解を得ることができる。散乱計算のため (1) 粒子個々の形状・誘電率・落下速度のデータセットを、近似解を得るため (2) 粒子種別分類した粒径分布データセットを作成する。
LLD計測粒子画像と立体形状再現 落下速度頻度分布比較 粒子サイズと落下速度、および、フラクタル次元と落下速度の関係
研究内容・成果  開発中の降雪粒子立体形状と落下速度、粒径分布を計測できるLow-cost Laser Disdrometer (LLD)とレーダ反射因子観測のため24GHzマイクロレインレーダ(MRR)を北海道大学低温科学研究所(以下、低温研)に設営、2015年12月上旬から現在まで観測を実施、多くの観測データを取得できている。低温研では2次元ビデオ雨滴粒径分布計(2DVD)、含水率計、電子天秤型の降雪強度計を運用している。粒径分布や降水量の真値として2DVD、MRRレーダ反射因子や電子天秤降雪量を利用、総合的・定量的にデータベースを評価する。誘電率は低温研の含水率計による実降雪気象条件での粒子サイズと含水量のバルク関係式で定義する。
 成果として、粒子立体形状再現アルゴリズムの初期版を完成した。LLDは計測幅40 mm(分解能0.105 mm)のラインスキャナを45度間隔に4台配置、3枚以上の影画から立体形状を再現した。LLDは粒子計測シート光に高度差を設け、粒子通過時間差から落下速度を見積もり、ラインスキャナの弱点である可変鉛直分解能(粒子通過速度に依存)を補正する。図1にスキャナ取得画像と再現立体形状をスキャナと同じ方向から見た画を例示する。図中スキャナ取得画像のグレイ部はシート光通過時間差を表す。LLD性能評価として、2DVDとの比較を実施した。LLDと2DVDの粒子サイズ定義が異なるため(LLDは粒子幅、2DVDは等価直径)、同一計測手法で導出した落下速度の頻度分布で粒子検出能力の評価を実施した。その結果、LLDと2DVDの頻度分布は比較的一致するが、大雪の事例では分布形状は似ているがLLD検出粒子数が大きく過小評価(4分の1)される事例があることを確認した(図2)。分布形状の一致は統計的に有意であるが、捕捉率が低下していることを示唆している。粒子取込口周辺の積雪が粒子捕捉率に与える影響があり調査中である。粒子形状の数値化に向け、形状指数であるフラクタル次元 FD を求めた。立体形状から得たFDと落下速度の関係から、板状形状粒子(FD=2)は落下速度が遅く、丸みがある形状になるほど(FD=2.6;軸比5:1の回転楕円体)落下速度が速くなるという流体力学に従う結果を示した(図3)。粒子形状の数値化には未だ課題が多いが、再現立体形状の妥当性を示唆する結果である。
 ラインスキャナ方式の影画計測では奥行きや窪みを再現できない弱点がある。上方からのカメラ画像を組み込み、顕著な窪み部分の再現性改善を目標に、運用中のLLDは斜め40度上方からのカメラ撮影機能を増設した。今後、カメラ画像を組み込んだ立体形状再現性アルゴリズム開発を予定している。現時点では、誘電率の組み込み、および粒系分布の絶対校正は未着手であるが、今後、含水率、電子天秤データから誘電率と降水量を組み込み、実在粒子条件によるマイクロ波散乱特性の理論計算を実施、観測レーダ反射因子との比較解析を実施する
LLD計測粒子画像と立体形状再現 落下速度頻度分布比較 粒子サイズと落下速度、および、フラクタル次元と落下速度の関係
成果となる論文・学会発表等 民田晴也, 津田紀生, 西川将典, 藤吉康志, 2015: 降雪粒子の立体形状と落下速度計測,日本気象学会2015年度秋季大会, 京都テルサ, Oct. 28, 2015.