共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
湖の栄養塩バランスが浮遊性微生物のホスホン酸代謝と好気的メタン生成に及ぼす影響 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 山梨大学生命環境学部 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 岩田智也 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
小島久弥 | 北大低温研 | 助教 |
2 |
福井学 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | 我々のこれまでの研究により、リン酸欠乏の湖では浮遊性微生物による有機リン(メチルホスホン酸:MPn)代謝が駆動し、分解産物として好気的にメタンが生成することが明らかとなってきた。本研究では、今なお明らかとなっていないMPnの湖水中における起源・挙動とメタン極大との関係と、MPn代謝を担う浮遊性細菌およびC-P結合開裂酵素遺伝子の発現状況を明らかにし、好気的メタン生成に関わる基質と微生物を特定する。さらに、現場から分離したメタン生成微生物によるMPn分解とメタン生成のカイネティクスを定式化し、湖水中に蓄積した余剰の窒素が大気へのメタン放出に及ぼす生態学的化学量論効果を明らかにする。 |
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研究内容・成果 | 本研究は、複数の湖で野外調査を実施し溶存メタンの鉛直・水平プロファイルと湖水中のMPnの起源と分布を明らかにすることを目的としていた。しかしながらマッチングファンドを確保できず、当初予定していた広域調査を行うことができなかった。一方で、研究目的に含まれているMPn代謝およびメタン生成を担う浮遊性微生物の特定と、窒素・リンのメタン生成速度に及ぼす生態学的化学量論効果については実施可能であったことから、本年度に集中的に実験を行った。 まず、MPn代謝遺伝子を有し、かつメタン極大形成時に細胞数が増加傾向を示すことが明らかとなっているSynechococcusを対象にメタン生成検証実験を行った。Synechococcus NIES-956株と山梨県西湖の水深10mより採取した湖水から分離したSynechococcusを培養し室内実験を行った。ただし、16S rRNA解析の結果、西湖サンプル中にはSynechococcusの他に従属栄養細菌が複数種存在することがわかった。まず、NIES-956および西湖サンプルを用いてMPn添加区、リン酸(Pi)添加区、対照区の3処理区で培養を行った。その結果、NIES-956および西湖サンプルともにMPn添加区からメタンが生成することが明らかとなった。 次いで、細胞内の栄養状態と湖水中の窒素・リンバランスがSynechococcusのメタン生成速度に及ぼす影響を評価するために、NIES-956株をPおよびN飢餓培養した後、MPn添加区、MPn+N添加区、MPn+Pi添加区および対照区で培養した。その結果、SynechococcusはP飢餓状態には陥るものの、N飢餓状態とはならずN欠乏を回避できることが明らかとなった。さらにP飢餓培養株とN飢餓培養株ともにMPn添加区でメタンを生成し、双方ともMPn +N区でメタン生成量が増加した。MPn代謝によるメタン生成が酵素律速の状態にあり、N添加によるタンパク質合成によりMPn代謝が上昇した可能性がある。 本研究により、SynechococcusにMPnを与えると好気的にメタンを生成することが明らかとなった。自然環境中でみられる湖のメタン極大も、SynechococcusによるMPn代謝が関与しているだろう。さらに、無機リンの添加によりMPn代謝は停止し、窒素添加によってメタン生成速度が加速するという、栄養塩の生態学的化学量論効果も明らかとなった。このことは、P飢餓状態の淡水湖中に人為的にN流入が生じると、温室効果ガスであるメタンの放出量が増加することを示している。さらに、SynechococcusはN飢餓耐性が強いことも明らかとなり、夏期における水温躍層の発達とそれに伴う窒素欠乏がSynechococcusの増殖をもたらし、MPn代謝によるメタン生成をもたらしているものと推察された。 |
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成果となる論文・学会発表等 | 岩田智也・小林あい・内藤あずさ・小島久弥(2016)湖における好気的メタン生成プロセス.低温研研究集会「環境微生物学最前線」. |