共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

泥炭の好気的分解にともなうCO2放出量の定量化
新規・継続の別 継続(平成26年度から)
研究代表者/所属 北海道大学大学院農学研究院
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 平野高司

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石井吉之 北大低温研 助教

研究目的 北半球の高緯度地域から熱帯まで地球上で広く分布する泥炭地は、巨大な量の炭素を土壌有機物(泥炭)として蓄えてきた。しかし、森林伐採や火災、排水をともなう土地利用変化(農地やプランテーションへの開発)などの主に人為的な環境攪乱により、近年、泥炭炭素の脆弱化が急速に高まってきている。本研究では、マレーシア・サラワク州にある熱帯泥炭地の異なる3つの土地利用タイプについて、自動開閉式の土壌チャンバーシステムを用いて泥炭からのCO2放出速度を連続測定し、泥炭の好気的分解速度を定量化する。また、環境要因(地温、地下水位、土壌水分など)との関係を解析することで、泥炭の好気的分解の変動要因を明らかにする。
  
研究内容・成果 近年、熱帯泥炭地では大規模な農地開発のために排水路が形成され、地下水位が低下して乾燥化が進んでいる。微生物による泥炭の好気的分解(CO2排出)が促進され、泥炭火災をともなう巨大CO2排出源(ホットスポット)として注目されている。地球温暖化抑制の観点から土地利用変化にともなうCO2排出量の定量化が必要とされ、特に、熱帯泥炭の好気的分解に関するフィールドでの長期連続データの蓄積が強く求められている。
本研究はマレーシア・サラワク州にある熱帯泥炭地について、3つの異なる土地利用タイプ(オイルパーム;SBW、二次林;CMC、原生林;MLM)に根切りのトレンチングを施した「根切区」と未処理の「対照区」を設け、不透明PVC製のチャンバー(高さ40cm、内径25cm、有効容積:0.0177 m3、底面積:0.0491 m2)をそれぞれ8台、合計16台を設置した。トレンチ及びチャンバーの設置日は、それぞれSBWは2014年5月7日と2014年5月24日、CMCは2014年10月24日と2015年5月18日、MLMは2014年10月27日と2015年8月11日である。
現地カウンターパート(サラワク州熱帯泥炭研究所)の協力を得ながら、データロガー(CR1000, Campbell)及び赤外線ガス分析計(LI820, Li-Cor)を用いた自動計測システムにより、微生物呼吸(微生物による有機物の好気的分解量)と土壌呼吸(微生物呼吸+根呼吸)による泥炭からのCO2放出速度を24時間体制で測定している。加えて、2015年8月には携帯型ガス分析計(Model 915-0011, Los Gatos Research)を3つ全てのサイトに設置完了し、CO2に加えてCH4およびH2Oの放出量を測定している。この他、環境要因となる地下水位(GWL)、地温(5 cm深)、土壌水分(地表下30cm、 SWC)を、それぞれ投げ込み式水圧センサ(HTV-050KP, Sensez)、熱電対、TDRセンサー(CS616、Campbell)を用いて30分間隔で計測している。得られたデータをもとに、CO2放出速度と環境要因(地下水位、地温、土壌水分量など)の関係を解析し、泥炭の好気的分解の変動要因を解明していく。
2014年9月から2015年11月までオイルパーム(SBW)で観察したGWLは-0.89〜-0.14 m、地温は22.9〜36.8 ºC、SWCは0.47〜0.71 m3 m-3であった。直近の2015年10月〜11月に得た土壌CO2フラックスの平均値(±SD)は、それぞれ根切区と対照区で2.41±2.38及び2.76±2.46 μmol m-2 s-1となり、両者の差で求めた根呼吸は0.46±0.38 μmol m-2 s-1と評価された。今後、CH4放出量についても解析を加える。
  
成果となる論文・学会発表等 2015年3月に岡山大学でのInternational Symposium on Agricultural Meteorology; ISAM 2015で口頭発表した。また2015年11月に北海道大学でのサステナビリティ・ウィーク2015の市民セミナー「脆弱な巨大炭素貯蔵庫-熱帯泥炭林-を監視する」で口頭発表した。今後、2016年8月にマレーシア・クチンであるInternational Peat Congress 2016での発表を予定している。

[1] Okimoto Y, Hirano T, Hirata R, Kiew F, Wong GX and Melling L. Measurement of CO2 efflux from peat soil in an oil palm plantation in Malaysia. ISAM2015 in Tsukuba, 16-19 Mar. 2015.
[2] 平野高司、山田浩之、沖元洋介、平田竜一、本岡毅.2015.「脆弱な巨大炭素貯蔵庫-熱帯泥炭林-を監視する 温暖化緩和のために」北海道大学サステナビリティ・ウィーク2015、市民公開セミナー、北海道大学、2015年11月3日
[3] Okimoto y, Hirano T, Hirata R, Melling L, Ishii Y , Kiew F and Xhua WG. CO2 emission from ground surface of oil palm plantation in Sarawak, Malaysisa. 15th International Peat Congress, 15-19 August 2016. Sawarak, Malaysia. (in plan)