共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 ミズゴケ個体群の成長に伴う炭素収支の変化とそのモデル化
新規・継続の別 継続（平成25年度から）
研究代表者／所属 北九州市立大学
研究代表者／職名 教授
研究代表者／氏名 原口昭

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

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 原登志彦 北大低温研

研究目的 　寒冷域の泥炭地ではミズゴケ類が主要な構成植物であり、泥炭地に集積する有機炭素を生産する主な泥炭形成植物である。泥炭地は大気との炭素収支の中で地球環境を調節する役割を果たしているため、環境変動の影響を受けやすい寒冷圏における炭素収支の気候変動に対する変化を予測する上でミズゴケ類の動態は重要であるが、ミズゴケ個体群の光合成の環境応答に関する定量的な評価は十分ではない。本年度は先行研究であるミズゴケ個体群の光合成特性に関する解析に基づいて、ミズゴケ個体群の光合成の群落高による変化、および水位環境に対する応答に関する実測データを蓄積し、ここから理論的解析の方向性をさぐることを目的とした研究を行った。
　　
研究内容・成果 　ミズゴケ群落の光合成速度を把握するため、ミズゴケ個体群の二酸化炭素収支の計測を行った。ミズゴケ群落の光合成活性が光合成器官と非光合成器官とのバランスにどのように応答するかについて、成長点からの長さを変化させてポット内に植栽し、二酸化炭素収支の光強度応答性を計測した。また、群落光合成速度と水位環境との関連を明らかにするため、ポット内の水位を変化させ、同様な計測を行った。供試試料としてオオミズゴケとヒメミズゴケを用いた。
光合成器官と非光合成器官とのバランスがミズゴケ個体群の光合成活性に及ぼす影響に関しては、成長点から1-8cmの間で5段階の長さに切断したミズゴケ個体を採取地と同一密度で植栽し、光合成速度の光応答を計測した。その結果、どの処理においても、維管束植物の群落光合成と同様に光飽和点が著しく高い光―光合成曲線が得られ、太陽直射光下においても飽和に達しない光応答が認められた。計測値は、葉面積、光合成器官の個体重などを基準として表すことが困難であり、群落面積を基準として示したため、速度の絶対値で比較することが難しい。光合成器官と非光合成器官とのバランスが影響する光補償点に関しては処理間の比較が可能であるが、オオミズゴケ、ヒメミズゴケともに処理と関連した傾向は認められなかった。この事から、ミズゴケ群落の非光合成器官、すなわちリターに相当する部分は暗呼吸にほとんど影響を及ぼさないことがわかった。ミズゴケ群落の炭素収支を把握する際には、成長点付近を摘出した個体を用いた計測でかなり正確な評価が可能であるが、群落光合成曲線を正確に求める必要があり、これに影響を及ぼす環境要因の解析が必要であることがわかった。
　ミズゴケ群落の群落光合成に影響を及ぼす環境要因の一つとして、水位の影響を調べた。水位は、泥炭地においては地表面付近で変動しており、わずかな水位変動が大きく光合成活性に影響する可能性がある。本研究では、群落表面からの水深を、0，4，8cmに設定したミズゴケ群集において上記同様の群落光合成速度の光強度依存性を計測した。その結果、水深が4，8cmの処理では、ほぼ同じ光―光合成曲線が得られたが、0cmの処理では光合成速度、暗呼吸速度ともに4，8cmの処理と比較して1/5程度となり、二酸化炭素収支が低く計測された。これは、高水位処理では植物と大気との間のガス交換が水を介して行われるため、水がガス輸送のバッファーとして働いたと考えられる。泥炭地における炭素収支を正確に把握するためには、水位環境の経時的変化とそれに応答した植物と大気の間でのガス収支を正確に求める必要があるが、両者の経時的な変化を長期間計測する必要があることが示された。
　今後は、ミズゴケ群落光合成の水、温度、日照などの環境に対する応答を複合的に解析し、全球の炭素循環モデルに組み込む手法について検討する。
　　
成果となる論文・学会発表等 Akira Haraguchi (2016) The Impact of Discharged Sulfuric Acid from Peat Swamp Forests on River Water Quality. In: Carbon Management and Ecosystem Functions of Tropical Peatland (eds Osaki M， Tsuji N). pp.297-309 Springer

Satomi Shiodera， Tika Dewi Atikah， Ismail Apandi， Tatsuyuki Seino， Akira Haraguchi， Joeni Setijo Rahajoe， Takashi Kohyama (2016) Impact of peat-fire disturbance to forest structure and species composition in tropical peat forests in Central Kalimantan， Indonesia. In: Carbon Management and Ecosystem Functions of Tropical Peatland (eds Osaki M， Tsuji N). pp.197-212 Springer