共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

極低温原子間力顕微鏡によるアモルファス氷構造のナノスケール空間分解能解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪大学大学院工学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 杉本宜昭

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

日高宏 北大低温研 助教

2

香内晃 北大低温研 教授

研究目的 分子雲内に大量に存在しているアモルファス氷は,分子雲内で生じる複雑な分子の形成や彗星の進化等に決定的な影響を与えることが知られている.このアモルファス氷は,宇宙化学において非常に重要な固体であるにも関わらず,実験的な困難さから結晶氷に比べてその理解は進んでいない.アモルファス氷の重要な物性値を決めるナノスケール構造を明らかにすることが求められているが,既存の構造研究手法(X線,電子線回折法や比熱,密度測定)では困難である.本研究では,新たな手法によるアモルファス氷構造研究として,極低温原子間力顕微鏡を用いてアモルファス氷表面のナノスケール構造を明らかにすることを目的とする.
  
研究内容・成果 1.アモルファス氷表面構造観察
超高真空内に設置した低温基板(45-105K)に,水分子を蒸着し作成したアモルファス氷の表面形状を極低温原子間力顕微鏡を用いて測定した.研究の初段階として,使用した基板は取り扱いの慣れているSi(111)を用いた.測定は,基板温度(45K, 103-108K),蒸着速度(0.1-1nm/min),氷厚(3nm, 20nm, 40nm)を変数として行った.観察の結果,どの条件においてもおおよそ5nm程度の氷塊の凝集体であることが明らかになった.蒸着速度,氷厚を固定し,基板温度を45Kと105Kで観察した表面形状象を比較すると,氷塊の大きさはわずかに45Kの方が小さい傾向が見られ,また氷塊の高低差は105Kの方が明らかに大きく,45Kではほぼ均一であった(図1参照).氷塊の凝集体として見える表面の凸凹構造は表面付近のみに存在するのか,それとも基板から氷最表面まで繋がった構造なのか(針状構造)を調べるため,氷表面をカンチレバーで削り取り内部構造を見ることを試みた結果,スクラッチ跡(中央付近の正方形部分)に溝構造が見られることから,生成されるアモルファス氷は針状構造であることが示唆された(図2参照).この観察された針状構造にSi(111)面が作用しているのかを調べるためには,水蒸着中における原子分解能観察や基板種を換えた測定を行なう必要があり,今後進めていく予定である.

2.装置の改良(反射型電子線回折装置の導入および最低到達温度の改善)
低温基板に水分子を蒸着し氷を作成するとき,基板種,蒸着速度,基板温度に依存して,生成される氷が結晶とアモルファス状態のどちらにもなり得る.原子間力顕微鏡による形状測定では氷の結晶状態についての情報は得られないため,アモルファスと結晶の境界付近の条件で氷を作成した場合,それがアモルファスなのか結晶なのかを知る必要がある.そのため,反射型高エネルギー電子線回折装置(RHEED)を既存の装置に導入することとし,電子線検出システムの設計製作を行った. 現有の極低温原子間力顕微鏡の最低到達温度は45K程度であり,分子雲環境温度程度(∼20K)には達していない.更なる低温化および上述したRHEED測定の電子線飛行経路を確保するため,冷却部品の再設計・再制作を行った.
  
成果となる論文・学会発表等 日高宏,中坪俊一,渡部直樹,香内晃,杉本宜昭,「極低温原子間力顕微鏡によるアモルファス氷の表面構造解析」,日本地球惑星科学連合2014年大会,2014年5月24日,パシフィコ横浜