共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	宇宙ダスト生成過程解明に向けた数値的及び実験的手法による核生成理論の検証
新規・継続の別	継続（平成24年度から）
研究代表者／所属	北大低温研
研究代表者／職名	学振特別研究員
研究代表者／氏名	田中今日子

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	河野明男	海洋研究開発機構	研究員
2	木村勇気	東北大学大学院理学院研究科	助教
3	吉田敬	京都大学基礎物理学研究所	特任助教
4	Juerg Diemand	チューリッヒ大学	准教授
5	Raymond Angelil	チューリッヒ大学	研究員
6	田中秀和	北大低温研
7	佐﨑元	北大低温研
8	長嶋剣	北大低温研

研究目的	核生成過程は宇宙に存在する氷や岩石から成るダスト微粒子（宇宙ダスト）の生成や進化を考える上で重要なプロセスである。　核形成過程は他にも、気象学(雲の形成)、物性論(ナノ粒子形成)等、多くの分野で重要な役割を果たすが分子レベルでの理解は限られている。古典的核形成理論は、均質核形成の巨視的記述を与え、広く用いられているが、問題点として核生成の際に形成される臨界核の表面エネルギーの評価に巨視的な表面張力を用いる等、分子レベルの効果を無視している点が挙げられている。我々は、核生成過程の分子動力学（MD)計算や核生成や結晶化実験との連携を行うことにより、精度の高い核生成理論モデルの構築を目指す。
臨界核i*と核生成率Jに対してのスケーリングの関係。Sは過飽和比を示す（Tanaka et al. 2014)。　液体中の泡の核生成の分子動力学計算例（Diemand et al. 2014)。白い部分が気泡を表す。
研究内容・成果	今年度の主な成果に以下の3点が挙げられる。 1.核生成率の新しいスケーリングの関係の導出これまで我々は超並列計算機を用いて80億分子の希ガスの分子動力学計算を行い，従来難しかった室内実験条件と同様の条件で核生成過程を再現することに成功した(Diemand et al. 2013)。これにより幅広い条件下での、核生成率やクラスター分布の詳細な情報を得ることが可能になった。そこで大規模計算から得られたクラスター分布からクラスター形成のための自由エネルギーを算出しクラスターサイズ依存性を求めた。その結果、クラスターの表面エネルギーとバルクの表面エネルギーの比は温度によらず曲率のみに依存するという結果が得られた。驚くべきことに、我々の結果は臨界核の表面エネルギーとして得られるバルクの表面エネルギーと曲率のみに依存する簡単な関係式が、わずか数分子のクラスターまで成り立っていることを示し、この関係式から希ガスに対して任意の過飽和状態で使える核生成率および核生成のスケーリングの関係を導いた(Tanaka et al.2014)。 2.沸騰の核生成液相からの気泡の核生成過程は、気相からの核生成過程と逆の相変化であり、さまざまな分野に関わる重要な問題である。我々は液体からの気泡の核形成過程について、5億分子の希ガスの分子動力学計算を用いて再現した。多数の粒子を用いることにより、ミクロカノニカル系（NVE)において、液相から泡が多数現れる様子が得られ、これにより初めて直接的に生成率を測定することに成功した(図参照）。理論との詳細な比較を行ったところ、古典的核生成理論で比較的良く説明できることが分かった。ただし、微小な泡の表面張力はバルクと異なり、サイズと温度依存性があることが示された。この表面張力の結果は上の1で述べた気相からの核生成過程の研究結果と整合的である。本成果はPhys. Rev. Eに掲載され、その号のEditors' Suggestion に選出された (Deimand et al.2014)。 3.水の核生成の大規模計算これまで我々は水分子を用いた核生成過程のMD計算を行い、核生成率を決定するクラスターの表面エネルギーやモノマーの付着確率の過飽和依存性等について明らかにした (Tanaka et al. 2014)。この研究により付着確率は過飽和比に強く依存することが明らかになった。我々はさらに小さい過飽和比の条件での核生成過程を調べるために、これまで行ってきた分子動力学計算を大粒子数系に拡張した。我々は2014年度においてスイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)で5千万cpu時間の計算資源を獲得した。これにより超並列計算機を用いて従来より3桁多い30-400万分子用いた計算を行うことが可能になり、従来より4桁小さい核生成率を得ることに成功した。本成果は現在投稿論文としてまとめているところである。
臨界核i*と核生成率Jに対してのスケーリングの関係。Sは過飽和比を示す（Tanaka et al. 2014)。　液体中の泡の核生成の分子動力学計算例（Diemand et al. 2014)。白い部分が気泡を表す。
成果となる論文・学会発表等	J. Diemand， R. Angelil， K. K. Tanaka， and H. Tanaka， Direct simulations of homogeneous bubble nucleation:Agreement with classical nucleation theory， Phys. Rev. E 90， 052407 (2014) R. Angelil， J. Diemand， K. K. Tanaka， & H. Tanaka， Bubble evolution in homogeneous nucleation simulations， Phys. Rev. E 90， 063301 (2014) K. K. Tanaka， J. Diemand， R. Angelil， & H. Tanaka， Free energy of cluster formation and a new scaling relation for the nucleation rate， Journal of Chemical Physics， 140， 194310 (2014) R. Angelil， J. Diemand， K. K. Tanaka， & H. Tanaka， Properties of Liquid Clusters in Large-scale MD Nucleation Simulations， J. Chem. Phys. 140， 074303 (2014)