共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

空間統計分析に基づく北方林の更新維持機構の解明
新規・継続の別 継続(平成25年度から)
研究代表者/所属 東京大学大学院農学生命科学研究科
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 鈴木智之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鳥丸猛 弘前大学農学生命科学部 助教

2

松下通也 秋田県大生物資源科学部 助教

3

原登志彦 北大低温研 教授

4

隅田明洋 北大低温研 准教授

5

小野清美 北大低温研 助教

6

長谷川成明 北大低温研 助教

7

西村尚之 群馬大学社会情報学部 教授

8

真鍋徹 北九州市立自然史・歴史博物館 学芸員

9

赤路康朗 岡山大学大学院環境生命科学研究科 大学院博士課程

研究目的  北方圏の森林群集の更新維持機構を解明するために、北方林の主要構成樹種の種間相互作用を明らかにする。温帯・熱帯林と比較すると北方林は群集を構成する種数が少なく、ある特定の異種の個体密度が多くなるため、種間相互作用が群集の共存機構に果たす役割は大きいと考えられる。さらに、種数の少ない群集は種間の生態的な因果関係を特定できる格好のモデルである。本応募研究では、これまで、低温研の実験地である大雪山・層雲峡付近(東大雪)の老齢林の固定試験地の主要構成種の空間分布特性を解析してきた。平成26年度は特に稚樹の分布特性を詳細に解析することを目的とした。
  
研究内容・成果  低温研の実験地である大雪山・層雲峡付近(東大雪)の老齢林の2ha固定試験地における2008年調査時の樹高50cm以上の稚樹の分布データを解析した。本試験地は、1999年より全域で胸高直径5cm以上の毎木調査および倒木調査が行われている。試験地内の1haでは樹高50cm以上の稚樹調査が行われている。この稚樹データを用いて、点過程解析であるL関数およびg関数によって優占樹種3種(トドマツ,エゾマツ,アカエゾマツ)の分布パターンおよび種間の空間的関係を解析した。樹種ごとの分布パターンは全て集中分布を示した。樹種間の空間的関係を解析した結果、調査区全体の傾向としては各樹種ともに同所的に分布していた。これは全樹種ともに倒木上に分布が限られるためと考えられた。実際、トドマツ,エゾマツ,アカエゾマツの土壌上の稚樹密度はそれぞれ0.0170, 0.0029, 0.0013個体/㎡だったが、倒木(根株を含む)上ではそれぞれ1.1566, 1.0302, 0.1359個体/㎡、と全樹種とも明らかに倒木上に偏って分布していた。一方、全稚樹の空間配置は固定し種の配置のみをランダムに入れ替えるランダムラベリングテストによって種間の局所的な空間的関係を解析した結果、全ての樹種間で排他的(トドマツとエゾマツ)、または排他的な傾向があった。
 以上より、北海道北方林の優占樹種3種の稚樹の分布はともに、倒木上に偏って分布するも、樹種間でその分布傾向が異なることが示された。つまり、光環境や分解度などの局所的環境に対して樹種間で応答が異なると考えられた。そこで、現在、さらに詳細な分布パターンの樹種間の比較の手法を開発中である。まず、倒木上での樹種間の異所性を検証するため、ランダマイゼーションテストを行う。倒木上の稚樹については、それぞれが根付いている倒木が記録されており、それぞれが同一の倒木上に分布しているかどうかが識別可能である。これを利用し、個々の倒木上の稚樹数と調査区全体の各樹種の稚樹数は固定しつつ、稚樹の樹種をランダムに入れ替えるランダム試行を十分数実施することによって、稚樹の分布が樹種とは無関係であるという帰無仮説のもとでの稚樹の分布からの観察された稚樹の分布の違いを検証する。次に、光環境の稚樹の分布に対する影響を検証する。調査区内は林床の光環境が全天写真によって測定されている。これによって林床全体の光環境の頻度分布が推定可能であり、この林床全体の光環境の頻度分布と各樹種の稚樹がいる場所の光環境の頻度分布を比較することで各樹種の分布と光環境の関係を検証する。これらの解析のデータへの適用およびさらなる手法の開発を次年度に行う予定である。
  
成果となる論文・学会発表等 西村 尚之, 赤路 康朗, 鈴木 智之, 長谷川成明, 小野 清美, 隅田 明洋, 原 登志彦, 飯田 滋生, 関 剛, 倉本 惠生, 杉田 久志, 中川弥智子, 松下 通也, 廣部 宗, 星野 大介, 稲永 路子, 山本 進一 (2015)北方針葉樹林におけるトウヒ属Piceaとモミ属Abiesの稚樹の動態に及ぼす林床環境の影響. 低温科学 73 (in press).