共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
寒冷多雪地域における雪を介した物質動態に関する研究 |
新規・継続の別 | 継続(平成25年度から) |
研究代表者/所属 | 信州大学山岳科学研究所 |
研究代表者/職名 | 研究員 |
研究代表者/氏名 | 佐々木明彦 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
倉元隆之 | 信州大学山岳科学研究所 | 研究員 |
2 |
的場澄人 | 北大低温研 |
研究目的 | 山岳地域にもたらされる多量の積雪は,積雪クリープや積雪グライドによって植生の破壊や地表物質移動を生じさせることが知られている。しかし,積雪クリープ・グライドが,他の地表プロセスに比べ,斜面に対しどの程度の影響をもつかは明らかでない。積雪の挙動と他の地表プロセスを総合的に観測することで,積雪クリープ・グライドが斜面物質移動に与える影響を評価できると考えられる。そこで,寒冷多雪山地の亜高山帯に調査区画を設置し,そこでの植生の動態の解明,地表で生じる物質移動の定量化,積雪グライド量の計測を実施した。 |
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研究内容・成果 | 北アルプス西穂高岳の亜高山帯と東北日本の蔵王火山の亜高山帯を調査対象とした。これは,積雪の挙動は雪質変化と密接に関わるため,積雪の温度勾配が異なる複数の地域で観測を実施するべきと考えたためである。 はじめに,2014年6月の消雪後に,調査区画内の植物を記載し,以後,月1度のモニタリングを積雪がみられる11月まで実施した。この結果,亜高山帯の主要樹種であるオオシラビソの実生は,調査区画内では当年性のものがほとんどを占めることが明らかとなった。また,それらの当年性実生は夏季〜秋季には維持されるが,冬季の間に亡くなり,翌年に残る実生はごく僅かであることが明らかとなった。 一方,6月から11月にかけて,セディメントトラップと侵食ピンを用いて斜面物質移動を観察した結果,梅雨期には日平均0.16gの土粒子が移動し,域内において侵食の場と堆積の場が形成されることが明らかとなった。ただし,それらの場所は基本的にランダムに出現するようである。また,秋季には斜面物資移動はほとんど生じなかった。同期間に降水量を観測し,これらの物質移動と降水量との関係をみると,日降水量80mmを超すような降雨の際に物質移動は生じるようである。また侵食ピンで土粒子の堆積厚や侵食厚をみると,いずれも2mm程度である。以上の斜面物質移動の挙動とオオシラビソの実生のモニタリング結果から,夏季〜秋季に生じる斜面物質移動はオオシラビソの実生の生長にとくに阻害的には働いていないと考えられる。 自作の積雪グライド計を,オオシラビソ林内と林外において,積雪に覆われる前の地表面にそれぞれ設置した。また,積雪深計,気温計,インターバルカメラを設置し,積雪深の変化と気温状況を観測した。本報告までの冬季には蔵王火山のオオシラビソ林内のデータのみ2月に改測できたが,その時点でのグライドの発生は認められなかった。また,積雪断面観測の結果,この2月時点での積雪層の層厚は203cmで,ほとんどをしまり雪が占めていた。積雪層の平均密度は0.315 gであった。積雪グライドが生じるような荷重に達していなかったのであろうと考えられる。その後,積雪深が増し,雪質が変化する過程で積雪グライドが発生する可能性が考えられるが,その結果は6月までに明らかになる予定である。また,当年性実生が冬季に亡くなることから,積雪グライドがオオシラビソの実生に影響を与えている可能性が考えられるが,セディメントトラップに捕獲された実生の形態を消雪後に観察して,積雪グライドによる引き抜きによるかどうかを判断する。そのうえで,寒冷多雪地域における物質動態に対する積雪グライドの評価を行う予定である。 |
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成果となる論文・学会発表等 |