共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

金ナノポーラス基板を利用したSERSによる氷床コア中の微粒子の化学組成解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 極地研
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 櫻井俊光

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

袴田昌高 京大エネ科 准教授

2

飯塚芳徳 北大低温研 助教

研究目的 本研究は、アイスコアに含まれる微粒子の化学組成解析を推進することを目的としている。金ナノポーラス基板の表面には、ナノサイズの多孔質構造が存在している。金ナノポーラス基板を利用した表面増強ラマン散乱(SERS)は、金ナノポーラス基板表面にレーザーを照射することによって発生する表面プラズモン共鳴を利用した散乱光である。この共鳴によって自然放出ラマン散乱よりも散乱光が大きくなることが知られている。アイスコアに昇華法を利用すれば、水溶性・不溶性微粒子が金ナノポーラス基板上に堆積し、これに顕微ラマン分光計測を行うことでSERSスペクトルが得られると期待できる。
図1.金ナノポーラス基盤のSEM画像(左下)、顕微鏡写真(左上)、ラマンスペクトル(右) 図2.ヘリウムネオンレーザー出力変化による微粒子のラマンスペクトルの強度変化 図3.ラマンスペクトル:硝酸ナトリウム塩の試薬(図中下)と 金ナノポーラス基盤上の微粒子(図中上)
研究内容・成果 顕微ラマン分光装置について、利用したレーザーはアルゴンイオンレーザー(514.5nm、〜200mW)とヘリウムネオンレーザー(633nm、〜60mW)で、分光器はトリプルモノクロメータ(Jobin Yvon T64000、1800/mm)である。金ナノポーラス基盤の孔径は20nmである。SEM画像を図1(左下)に示す。金ナノポーラス基盤に載せた南極氷床ドームふじ基地の表面雪を、-15度の低温クリーンベンチ内で12時間程度昇華させた。常温で撮影された顕微鏡写真を図1(左上)に示す。微粒子が金ナノポーラス基盤上に確認された。アルゴンイオンレーザーを金ナノポーラス基盤上に照射したときと、微粒子に照射した時のスペクトルを図1(右)に示す。同じ露光時間で計測すると微粒子を計測した時の方が、Backgroundが高くなった。これが表面プラズモン共鳴のSERSによる影響であると考えられる。
SERSは非線形光学現象である。それを確認するため、レーザー出力を変えてラマンスペクトルを計測した。ヘリウムネオンレーザーの出力は60mWと一定であるが、出射口に波長板と偏光板を組み合わせて出力を変えられるようにした。レーザー出力変化に伴う微粒子のラマンスペクトル(Backgroundを差し引いた値)の強度変化をまとめたものを図2に示す。
ラマンスペクトル強度変化は3つの段階に分けられる。Stage1:1~4mWまではほぼ線形に増幅(自発ラマン散乱)、Stage2:4~26mWまでは非線形に増幅し(SERS)、Stage3:それ以上に高い強度(26~37mW)ではほぼ線形に増幅する(サチレーション)。今回の微粒子サンプルでは、SERS計測に最適なレーザー出力は26mWと考えられる。
図3に金ナノポーラス基盤上の微粒子のラマンスペクトルを示す。試薬のラマンスペクトルと一致することから図3の微粒子は硝酸ナトリウム塩である。これまでの微粒子の化学組成解析では硝酸塩が確認されたことがないため、硝酸ナトリウムが南極ドームふじ基地の表面雪に見つかったことは新しい情報源となる。
自発ラマン散乱では、出力200mWのアルゴンイオンレーザーを利用してアイスコア中に含まれる微粒子の化学組成解析を行っていた。出力が非常に高いため、微粒子の融解や破壊が引き起こされることが度々あった(Sakurai et al., 2011)。SERSでは出力が弱くても微粒子のラマンスペクトルが認識できる。今後の微粒子の化学組成解析には有力である。
図1.金ナノポーラス基盤のSEM画像(左下)、顕微鏡写真(左上)、ラマンスペクトル(右) 図2.ヘリウムネオンレーザー出力変化による微粒子のラマンスペクトルの強度変化 図3.ラマンスペクトル:硝酸ナトリウム塩の試薬(図中下)と 金ナノポーラス基盤上の微粒子(図中上)
成果となる論文・学会発表等