共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
過渡的加熱現象における星間固体氷の蒸発および固体氷上での有機分子形成 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 名古屋市立大学 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 三浦均 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
山本哲生 | 神戸大学 | 特命教授 |
2 |
中本泰史 | 東京工業大学 | 准教授 |
3 |
長沢真樹子 | 東京工業大学 | 准教授 |
4 |
野村英子 | 東京工業大学 | 准教授 |
5 |
田中秀和 | 北大低温研 | |
6 |
田中今日子 | 北大低温研 |
研究目的 | 星間空間や原始惑星系円盤には複雑な有機分子が存在しており,これらの多くはH2OやCOを主成分とする固体物質(以下,固体氷)上で合成されると考えられている。一方で,天文観測によって検出される有機分子は気相中に存在しているため,有機分子が多く検出される領域においては固体氷の加熱・蒸発が生じ,それに伴って有機分子が気相中に放出されていると考えられる。本研究課題では,分子雲から原始惑星系円盤へと進化する際に,固体氷上においてどのような有機分子が形成し,それがどのような天文現象によって気相へと放出されるかを調べることで,多様な有機分子の成因を解明することを目的とした。 |
研究内容・成果 | 今年度は,主に「衝撃波による固体氷の熱的蒸発過程」及び「蒸発した氷分子の気相中における化学進化」に関するテーマについて理論的な基礎研究を行なった。また,これらの成果を元に,北大低温研にて研究打ち合わせを行ない,原始太陽系星雲における低温物質の進化について議論した。 氷微惑星の軌道は,主に木星重力の影響によって円軌道から歪み,楕円軌道化する。氷微惑星の軌道が楕円軌道化すると,円運動する円盤ガスとの相互作用によって氷微惑星が加熱される。本課題のメンバーである長沢氏の研究により,木星重力のみならず,円盤ガスの自己重力による永年共鳴の影響を考慮することで,氷微惑星の軌道離心率が従来の考えよりも大きくなることが示された。結果として引き起こされる氷微惑星の蒸発が固体氷の熱的進化,及び,ガス円盤環境に及ぼす影響について検討を行なった。氷微惑星の蒸発によってガス円盤内部の酸素分圧が変化する可能性や,蒸発残渣としてアミノ酸などの生体分子が形成される可能性が指摘された。 微惑星蒸発によって気相に放出された分子の化学進化について,数値計算による検討を行なった。具体的には,ダスト表面に形成された氷マントル中に存在する分子が氷微惑星の衝撃波加熱に伴い昇華したと仮定し,その後の化学進化を数値計算によって求めた。ダスト・ガスの温度と密度を変えて計算を行なった結果,ダスト温度が十分に高い場合には,氷マントルから蒸発したH2Sは気相反応により約1万年のタイムスケールでSOやCS,SO2などに変わることが示された。ダスト温度が分子の離脱温度より低い場合には,十分に密度が高ければ短いタイムスケールで分子はダストに凍結した。これらの結果に基づき,ALMAによる分子輝線の観測可能性の検討を行なった。 近年,ALMAにより,原始星に付随するガス円盤に向かって周囲から星間物質が質量降着する過程において,SO分子などからの分子輝線強度が局所的に増加する様子が観察されている。これは,円盤ガスと降着物質が交わる領域において降着衝撃波が生じており,星間物質に含まれる固体氷が蒸発していることを示唆している。固体氷の蒸発が生じる衝撃波条件(ガス密度,衝撃波速度)を調べるため,様々な衝撃波条件に対して固体氷の熱的進化の数値計算を実施した。その結果,SOやCO2, H2Sと同程度の吸着エネルギーを持つ分子からなる0.1 micronサイズの固体氷は,その放射率がシリケイトコアやH2Oなどの主要な氷成分によって決まる場合,ALMAで観察された降着衝撃波条件ではほとんど蒸発しないことが分かった。これは,星間塵の熱的進化シナリオに修正を迫る成果である。 |
成果となる論文・学会発表等 |
M. Nagasawa, K. K. Tanaka, H. Tanaka, T. Nakamoto, H. Miura, and T. Yamamoto, Revisiting jovian-resonance induced chondrule formation, Astrophysical Journal Letters 794, L7(5pp) (2014) T. Yamamoto, T. Kadono, and K. Wada, An examination of collisional growth of silicate dust in protoplanetary disks, Astrophysical Journal Letters 783, L36 (2014) H. Miura, T. Yamamoto, A New Estimate of Chondrule Cooling Rate Deduced from an Analysis of Compositional Zoning of Relict Olivine, The Astronomical Journal 147, 54 (2014) K. K. Tanaka, J. Diemand, R. Angelil, and H. Tanaka, Free energy of cluster formation and a new scaling relation for the nucleation rate, J. Chem. Phys.140,194310 (2014) K. K. Tanaka, A. Kawano, and H. Tanaka, Molecular dynamics simulations of the nucleation of water: determining the sticking probability and formation energy of a cluster, J. Chem. Phys. 140, 114302 (2014) |