共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

プロテオーム解析に基づく鉄硫黄タンパク質合成機構が細菌環境適応に果たす役割解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東北大学大学院生命科学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 三井久幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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笠原康裕 北大低温研

研究目的 生物の地球環境への適応機構は機能タンパク質の発現制御の問題に帰着するが、その様相は単純でない。遺伝子発現のメジャーな制御段階は転写開始過程にあるが、同時にmRNAの翻訳やタンパク質のターンオーバーのレベルでの制御が鍵を握る生命現象も広く知られつつある。結果、ゲノムレベルでの遺伝子機能の解析手段としてのプロテオーム解析は、生物の環境適応機構の解明において決定的な意味を持つことになる。本研究では、根粒細菌を材料に、温度ストレスへの適応およびマメ科植物との相互作用を環境適応のモデル系と位置付け、プロテオーム解析を通じて環境適応に果たす鉄硫黄タンパク質合成機構の役割を明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果 根粒菌のシグマ因子RpoH1の発現制御を受ける機能未知遺伝子SMc00302の変異株には、共生窒素固定不全、最小培地での生育阻害等、環境への適応に関して多面的な影響が観察される。そこで、当該遺伝子をsufTと命名し、野生株Rm1021およびsufT変異株SHO5それぞれの細胞の間で比較プロテオーム解析を行い、変異株で細胞内濃度が低下するタンパク質種の網羅的同定を試みた。両株ともに最小培地M9中25度で培養した対数増殖期の細胞、および37度10分間のヒートショック処理を施した細胞それぞれの全タンパク質抽出液を調製し、1-D SDS-PAGEおよびnanoLC-MS/MS分析に供した。そこで検出された各タンパク質種について、Protein content (mol%)= emPAI/ emPAIx 100を求め、その値を両株間で比較した。その結果、Rm1021株の少なくとも一方の温度で培養した細胞で検出されたタンパク質種計1,832個のうち、SHO5株でProtein contentが2倍以上減少したものが、25度では186個、37度のみでは86個、両温度で減少したものが120個あることが判明した。すなわち、それらのタンパク質種の細胞内レベルはsufT変異によって低下することを意味する。二次的な影響も排除できないが、少なくともその一部は、その成熟過程にSufT機能の関与があるような鉄硫黄タンパク質であると考えられる。今後、各タンパク質遺伝子の変異解析等を行うことで、SufTが制御する細胞機能の概略が明らかになってくると期待できる。また、細胞内SMc00302タンパク質の特異的免疫沈降を行い、共沈するタンパク質種の網羅的同定を進めた。現在、そこで検出されたタンパク質種をSufTと相互作用を通じて機能的に関連するタンパク質の候補と見なして、分析を継続している。以上より、鉄硫黄タンパク質合成システムから見た根粒菌の温度ストレス適応および植物との相互作用の一端が、同定されたタンパク質の遺伝子群のリストとして浮かび上がってきた。これは、生物の地球環境適応機構のモデルとして理解される。
  
成果となる論文・学会発表等 三井.根粒菌の鉄・硫黄タンパク質生合成因子が植物共生に果たす役割.日本ゲノム微生物学会(2015年3月8日).