共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

高解像度海洋海氷モデルによるオホーツク海・北太平洋熱塩循環システムの研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 立命館慶祥中学校・高等学校
研究代表者/職名 教員
研究代表者/氏名 松田淳二

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

研究目的  オホーツク海の北西部大陸棚の沿岸ポリニヤで冬季の冷却により作られる高密度陸棚水(DSW)はオホーツク海表層と中層をつなぐ循環を形成する。DSWはオホーツク海中層を南下し、変質されながら北太平洋中層の広域に到達する。一方でDSWの起源となる海水は北太平洋亜寒帯循環からベーリング海を経由した表層水であることがデータ解析から示唆されている。これらのことから、北太平洋亜寒帯循環域表層〜ベーリング海〜オホーツク海〜北太平洋中層という亜寒帯の表層と中層をつなぐオーバーターン循環が存在することが予想される。
 このようなオーバーターン循環を再現し理解するために海洋大循環モデルを用いて数値実験を行った。
  
研究内容・成果  海洋大循環モデルの水平格子を一般曲線座標を用いて配置し、オホーツク海北西部で3km以上の解像度、千島列島付近で7km以上の高い解像度を実現し、かつ北太平洋全域を領域とした。このことにより渦輸送、海峡通過流、沿岸境界流を亜寒帯循環域のほぼ全域で解像することができる。また表層塩分がモデル境界を除いてリストアされないため、塩分輸送を表現することができる。
 60年間のスピンアップの結果、モデルは海氷生産量、表層塩分、流速などを再現した。オホーツク海では西岸境界流である東樺太海流に加え、カムチャツカ半島西方沖の北上流(西カムチャツカ海流)とオホーツク海北岸にできる西向流(北沿岸流)が再現された。これらの海流とカムチャツカ半島東岸にできる東カムチャツカ海流、および黒潮・親潮続流がオーバーターン循環を形成する。このことはトレーサー実験からも確認できた。またトレーサー実験から循環の時間スケールも明らかになった。
 さらに風応力を変化させた感度実験を行った。風応力の変化によりあらゆる海流の流量が変化した。水温・密度を基準に評価したDSWの生成量は海氷生成量に比例するが、風に対して敏感ではなかった。しかしオーバーターンの指標である等密度面を貫く子午面流線関数の値は風に対して敏感であった。なぜならばDSWの生成強制力が十分強く、DSWの生成域である沿岸ポリニヤに流入する海水がほぼ全てDSW に変質され中層に沈み込むからである。沿岸ポリニヤに流入するのは風成の北沿岸流であるため、オーバーターン流量は風に対して敏感となる。これらの結果はオーバーターン流量を正当に評価するためには水塊の性質のみではなく風等の力学的効果を含める必要があることも主張する。
 風応力の変化に対して北太平洋亜寒帯循環域の表層塩分も敏感に応答した。風応力をスピンアップの途中で変化させる過渡応答実験により、その原因は北太平洋における北向き塩フラックスの収束(水平輸送)とEkman湧昇および冬季混合(鉛直輸送)があることがわかった。高塩化した亜寒帯循環表層水はオーバーターン循環によってオホーツク海中層に輸送され、影響を及ぼした。風応力を標準実験の1.5倍とした実験ではDSWの高密度化によりDSWがオホーツク海の海底にまで達し、オホーツク海の水塊構造が全く異なるものとなった。以上のようにオーバーターン循環の流路、時間スケール、風応力に対する応答性、そして塩分輸送の効果が明らかになった。
  
成果となる論文・学会発表等 Junji Matsuda, Humio Mitsudera, Tomohiro Nakamura, Yuichiro Sasajima, Hiroyasu Hasumi and Masaaki Wakatsuchi: Overturning circulation that ventilates the intermediate layer of the Sea of Okhotsk and the North Pacific: The role of salinity advection. J. Geophys. Res. 120(3), 1462–1489, 2015.