共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
エタン系の分子進化・重水素濃集実験:分子雲と彗星の比較に向けて |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 京都産業大学神山天文台 |
研究代表者/職名 | 天文台長 |
研究代表者/氏名 | 河北秀世 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
小林仁美 | エストリスタ | 代表 |
2 |
渡部直樹 | 北大低温研 |
研究目的 | 太陽系は46億年前に分子雲中で化学進化した結果をもとにして誕生した。この化学進化を追うために、様々な理論的研究が、気相および固体表面上の化学反応ネットワークを用いたシミュレーションによって行われている。しかし、そうした計算に用いられる反応速度定数は室温実験からの推定値が多く、不定性が大きい。特に様々な分子における重水素濃集については、その結果が化学反応場の温度環境に対する敏感なプローブであると考えられる一方で、基礎的な実験データがほとんど無い状況である。本研究では、特に、固体表面反応が需要な生成パスであるとされるエタン系の分子について、その生成過程ならびに重水素濃集過程について明らかにする。 |
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研究内容・成果 | 私たちの太陽系は46億年前に分子雲中で化学進化した結果をもとにして誕生したと考えられている。観測的には、現在も太陽系内に存在する始原天体である彗星を手がかりとして、化学進化に迫る研究が多く行われている。一方で、こうした化学進化を理論的に追うため、気相および固体表面上の化学反応ネットワークを用いたシミュレーションが多く行われてきた。しかし、そうした計算に用いられる反応速度定数は気相中の室温における反応速度定数から推定されたものが多く、大きな不定性を含んでいる。特に、様々な分子における重水素濃集については、その結果が化学反応場の温度環境に対する敏感なプローブであると考えられる一方で、基礎的な実験データがほとんど無い状況である。 本研究では、特に、固体表面反応が需要な生成パスであるとされるエタン系の分子について、その生成過程ならびに重水素濃集過程について明らかにすることを目的としている。特に2014年に彗星核の直接探査がヨーロッパ宇宙機構Rosettaミッションによって行われ、彗星核に含まれる揮発性物質の詳細な分析が可能となった。こうした結果を元に、分子雲中で起こると予想される様々な化学反応の結果を議論し、太陽系形成過程について探ることが本研究の最終目標となっている。本研究では、そのためにエタン系の分子の生成における、固体表面反応を通じた重水素付加ならびに重水素置換反応について、実験的研究を行った。 今回、C2H6に対するD原子照射によるD原子とH原子の置換プロセスについて、最初に実験を行った。実験の結果、H原子の引き抜き反応はほとんど起こっていないこと、すなわちD原子とH原子の交換はほとんど起こらないことが分かった。そのため、ひとたC2H6が生成されると、そこからエタンのD体が生成される可能性は極めて低いことが分かった。これはCH3OHに見られたD原子によるH原子の引き抜き過程とは対照的であった。 次に、C2H2およびC2H4に体するD原子照射を行い、D原子付加反応の結果について調べた。当初、C2H6に体するD原子付加反応の実験結果から、単純なD原子付加生成物が生じるだけであろうと予想したが、実際にはD原子付加の途中で、D原子によるH原子の引き抜き過程が生じている可能性がある。例えば、C2H4に体するD原子付加反応によって、C2H2D4なども生成されるいる可能性がある。今後、更に実験条件を精査し、D付加反応のどこでH原子の引き抜きが生じているのかを明らかにする実験を行う予定にしている。また、こうした結果を、今後次々と明らかになるであろうRosettaミッションの成果とも比較をする予定である。 |
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成果となる論文・学会発表等 | 特に無し。 |