共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

単価および多価不飽和脂肪酸の結晶多形及び相転移現象に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院大阪大学大学理学研究科 助教

2

佐崎 元 北大低温研

研究目的 本研究では、trans-単価不飽和脂肪酸(エライジン酸18:1(数値は鎖長と不飽和結合数))、パルミトエライジン酸(16:1)およびcis-多価不飽和脂肪酸(リノール酸 18:2、α-リノレン酸18:3、γ-リノレン酸 18:3 等)の凝集状態に関して具体的な情報を得るために、その結晶多形現象ならびに固体物性を振動分光法(赤外・ラマン)、X線散乱法、光学顕微鏡観察等の手法を組み合わせて調べる。cis-モノ不飽和脂肪酸については、赤外・ラマン分光法で詳細に振動スペクトルと不飽和鎖の形態とパッキングの関係に関する情報を集めており、この情報を活用して、より詳細な情報を得ることが出来ることが期待される。
  
研究内容・成果 (1) リノール酸は、カルボキシル基側から数えて二重結合が9位と12位に存在する多価不飽和脂肪酸であり、多くの植物油にふくまれている。人が体内で合成することができない必須脂肪酸の一つでもある。高純度リノール酸を用いた熱測定の結果では、昇温過程において-51.3℃、-33.5℃において吸熱をともなう可逆固相転移を示すことが分かっている。オレイン酸を初めとするcis-二重結合が一個存在する一価不飽和脂肪酸も、同様に固相可逆相転移を示すことが知られている。リノール酸の固相可逆相転移は、cis-一価不飽和脂肪酸と較べて転移エンタルピーがかなり小さな値を示すという特徴をもつ。
 このリノール酸の可逆固相転移の特徴を調べるために、炭化水素鎖のコンフォーメーション規則性を敏感にモニターすることができるラマン分光法や官能基の状態に敏感な赤外分光法を用いて調べた。オレイン酸では、二重結合の両側に存在している飽和炭化水素鎖のうちで、特にメチル基側の炭化水素鎖のコンフォーメーション規則性が著しく低下する。一方、リノール酸では、このような顕著なコンフォーメーション規則性の低下はメチル基側とカルボキシル基側の両炭化水素鎖において見られないことが明らかになった。一方、二重結合部分のバンドは、ラマン散乱と赤外吸収の両スペクトルにおいて大きな変化がみられ、多価不飽和脂肪酸の固相転移は、二つの二重結合部分に局在した構造変化であることが示唆された。リノール酸の二つの炭化水素鎖のうち、
(2) 代表的なtrans-一価不飽和脂肪酸であるエライジン酸が三つグリセリンに結合したトリグリセリドであるトリエライジンの結晶化挙動について、光学顕微鏡を主な手段として調べた。昨年度までの研究においてトリエライジンに飽和トリグリセリドの一つトリステアリン(エライジン酸と同じ鎖長の飽和脂肪酸ステアリン酸からなる)を添加することが、著しくトリエライジンの結晶化を早めること、結晶モルフォロジーに影響を与えることが明らかになっている。本年度、この効果について検討を加えた結果、この効果はトリステアリンの量を1%程度まで減らして生じることが分かった。また、トリステアリンの添加は最安定相であるβ相の発生を促進することが明らかになった。
  
成果となる論文・学会発表等