共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

湖沼の好気環境に出現するメタン極大の生成に関わる微生物群の特定
新規・継続の別 継続(平成25年度から)
研究代表者/所属 山梨大学生命環境学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 岩田智也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小島久弥 北大低温研

2

福井学 北大低温研

研究目的 湖沼からのメタン放出は、自然界からの総放出量の6-16%にも達している。従来、湖沼のメタンは底泥の嫌気環境におけるメタン菌の代謝に由来するものと考えられてきた。しかし、多くの湖沼で好気環境にメタン極大が出現することが明らかとなってきた。メタン極大の形成には浮遊性細菌の代謝が関与している可能性が浮上しているものの、未だ具体的な微生物群の特定には至っていない。本研究では、好気的メタン極大が出現する湖を対象に、浮遊性細菌の群集構造を分子生態学的手法により定量化する。これによって、メタン極大の形成に関わる微生物群を明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果 調査は山梨県の西湖で実施した。2013年の調査により、水温躍層が発達する8〜9月に、水深10m付近で好気的メタン生成が活発であることが明らかとなった。また、好気的メタン極大の季節的・空間的分布はSynecococcusの分布に一致することも明らかとなった。そこで、2014年8月24日に西湖から湖水を採取し、Synecococcusの分離を試みた。湖水は好気的メタン極大が確認された水深10mから採取し、無機合成培地(改変BG11)で浮遊性微生物を増殖させた。しかしながら、培地上でのSynecococcusの増殖は遅く、年度内に他のシアノバクテリアや緑藻類からSynecococcusを分離することはできなかった。現在も得られた湖水試料からクローン株を得るための純化培養を継続中である。
 そこで、BG11培地上で増殖した浮遊性微生物群を対象に、好気的メタン生成検証実験を行った。分子生態学的手法を用いて、対象とした浮遊性微生群の群集解析もあわせて実施した。まず、増殖細胞を飢餓状態にするため、窒素またはリンを除いた培地で飢餓培養を19日間行った。次に、飢餓状態に達した細胞を用いて、メタン生成実験を行った。窒素およびリン飢餓状態の細胞にMPn、MPnと窒素およびMPnと無機リンを添加し、細胞の増殖とメタン発生量を対照区と比較した。その結果、MPnの添加により好気的にメタンが生成することが明らかとなった。しかし、 MPnと無機リンの添加区ではメタンがほとんど生成しないことから、浮遊性微生物は無機リンの代替としてMPnを利用し、その分解産物としてメタンが生成していると考えられた。さらに、MPnに加え窒素を添加すると、メタン生成速度が加速することも明らかとなった。
  本研究結果から、MPnを基質とする好気的メタン生成速度は窒素や無機リンの添加により大きく変化することが明らかとなった。とくに、窒素添加によるメタン生成速度の上昇は大きく、湖への過剰な窒素の流入が浮遊性微生物のMPn代謝を促進し、大気へのメタン放出を増加させる可能性が示唆された。2013年の結果と合わせると、温度成層が発達する夏期に、表水層から水温躍層で栄養塩が枯渇し、それとともに貧栄養環境に適応したSynecococcusがMPnを代謝することで好気的にメタンを生成している可能性が極めて高いと考えられた。また、窒素の流入によるN/P比の上昇は、好気的メタン生成速度を加速される可能性が考えられた。これらの成果は、今後海外学術誌などで発表していく予定である。
  
成果となる論文・学会発表等 岩田智也,河合巧幾,中川裕介(2013)湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成プロセス.日本陸水学会第78回大会
岩田智也・小林あい・内藤あずさ・ 小島久弥(2014)湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成プロセス.日本地球惑星科学連合2014年大会
岩田智也・小林あい・内藤あずさ・ 小島久弥(2014)湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成プロセス.日本陸水学会第79回大会