共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物由来の凍結制御物質の氷晶生成・成長等に及ぼす効果
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 農業生物資源研究所
研究代表者/職名 上級研究員
研究代表者/氏名 石川雅也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐崎 元 北大低温研

2

古川義純 北大低温研

3

長嶋 剣 北大低温研

研究目的  耐寒性植物は、厳しい氷河時代を生き抜く進化の過程で、組織・細胞の水の凍結という過激なストレスも制御できる各種凍結制御活性を獲得し、多様な種および組織・器官に固有の凍結様式・凍結戦略をもつに至ったと考えられる。高耐寒性植物組織はこのような凍結制御活性物質の宝庫であることが判ってきた。本課題では、このような凍結制御活性・凍結制御物質を取り上げ、氷晶生成・成長等に対する効果を氷晶成長専門家の下に解析し、これらの活性機構や組織の耐寒性機構での役割等を明らかにする目的で行われる。本年度は、申請者の見出した氷核活性物質の植物の凍結過程における役割の解析や本物質上での氷結晶発生観察が可能かどうか検討した。
  
研究内容・成果  植物の内生氷核活性は、越冬中の植物組織の凍結開始や組織や器官に固有な凍結様式の実現に重要な働きを果たしていることが判ってきた。筆者らが開発した赤外線サーモビュアによる新しい凍結過程可視化法により、組織の凍結する順番がわかってきた。たとえば、ブルーベリー枝では、皮層部から凍結開始し、木部へと伝播し、枝全体の凍結が生じる。一方、レンギョウでは、枝中心部の髄から凍結が開始され、外側の木部、さらに外側の皮層部に凍結が伝播して凍結することがわかった。これらの組織が凍結する順番と各組織の氷核活性との関係を調べたところ、最初に凍結開始する組織(ブルーベリー枝では皮層部、レンギョウ枝では髄)に高い氷核活性があることが判った。また、器官外凍結をするレンゲツツジ花芽においては、Ice Sinkとして機能する芽鱗片に高い氷核活性があることがわかった。これにより芽鱗片が最初に凍結し、小花の水を吸い出す働きがあることが考えられた。過冷却で越冬するレンゲツツジ花芽内部の小花の氷核活性は著しく低かった。このように、植物組織の凍結する順番と各組織の氷核活性とには、密接な関係があることが判ってきた。レンゲツツジ花芽鱗片やブルーベリー枝皮層部の氷核活性は、最初に凍結開始するための凍結センサーとして機能している可能性も示唆された。
一方、これまで植物の凍結開始部位と考えられてきた木部は、氷核活性がこの3種の植物いずれにおいてもー10℃程度と低いことがわかった。また実際に最初の凍結開始部位としても機能していないことが判明した。
また、これらの氷核活性の季節的変動について調べたところ、ブルーベリー枝とレンゲツツジ芽鱗片においては、初霜のおりる直前に最大の氷核活性をえるように、徐々に高まっていく現象が見られた。ブルーベリー枝の最大氷核活性はー1℃付近まであがり、生物起源の氷核活性として最も高いと思われた。この氷核活性はその後、降霜や凍結を繰り返すごとに氷核活性の低下がみられた。一方、レンゲツツジ芽鱗片の氷核活性は4月まで高い水準で保たれていた。レンギョウ枝髄に見られる氷核活性は、通年殆ど変化がなかった。
レンギョウ枝髄とレンゲツツジ芽鱗片の氷核活性は熱処理に耐性であるが、ブルーベリー枝とレンゲツツジ枝のいずれも皮層部にある氷核活性は熱処理に感受性であった。このように、植物の内生氷核活性は植物種や組織によって数種類あり、その性質が著しく異なることが判った。
この中で比較的単離が容易なレンギョウ枝髄の氷核活性物質について、精製したもの及び、合成したものについて、その氷核活性の詳細を調べた。北大低温研においては、この活性物質上での氷晶形成観察が可能か調べるため、AFMを用いた観察を試みた。しかし、氷核活性物質の各結晶の大きさが10μm程度しかなく、結晶観察そのものが困難であった。

  
成果となる論文・学会発表等 1.Ishikawa M,et al. (2015) Factors contributing to deep supercooling capability and cold survival in dwarf bamboo (Sasa senanensis) leaf blades. Frontiers in Plant Science, Functional Plant Ecology 5: 791. doi: 10.3389/fpls.2014.00791
2.Ishikawa M, et al. (2015). Ice nucleation activity in various tissues of Rhododendron flower buds: their relevance to extraorgan freezing. Frontiers in Plant Science, Functional Plant Ecology 6: 149. doi: 10.3389/fpls.2015.00149
3.石川雅也 植物組織の氷核活性の検索 低温生物工学会誌 60 (2), 79-88 (2014)
4.Kishimoto T, et al. (2014) High ice nucleation activity located in blueberry stem bark is linked to primary freeze initiation and adaptive freezing behavior of the bark. AoB PLANTS 6: plu044 (article number)
5.Kishimoto T,et al. Seasonal changes in ice nucleation activity in blueberry stems and effects of cold treatments in vitro. Environmental and Experimental Botany 106: 13–23 (2014)