共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南極ドームふじ底面氷の物理解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北見工業大学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 堀 彰

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

宮本 淳 北海道大学高等教育推進機構 特任准教授

2

大野 浩 北見工業大学 助教

3

飯塚芳徳 北大低温研 助教

研究目的 ドームふじ氷床コアの最深部の底面氷は,地熱と圧力による影響を受けて融解していると考えられている。底面氷では結晶粒の大きさが数cmオーダーと非常に大きいことなどが知られているが,その構造や塩微粒子の存在形態などの詳細は明らかではない。そこで,本研究では,底面氷のラウエ法による結晶方位測定やX線回折プロファイルの測定を行い,その構造の特徴を明らかすることを主な目的とする。さらに光学顕微鏡観察やラマン散乱測定により塩微粒子の存在形態を調べ,イオンクロマトグラフ法による化学分析の結果と合わせて,底面氷の物理化学的な特徴を総合的に明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果 ドームふじ深層氷床コアの深さ3025m,3033m,3034m,3035mの各深さの試料から薄片を作製し,ラウエ法による結晶方位測定を行った後,X線回折測定法によりロッキングカーブ測定を行った。各薄片試料にはほぼ一つの結晶が含まれており,各結晶に共通して(10-10)回折の測定を行った他,結晶方位に応じて (10-11)回折, (10-12)回折,(11-20)回折の測定を行った。得られたプロファイルはGauss関数でフィッティングを行い,その幅から転位密度を求めた。
(10-11)回折の測定から得られた転位密度は,深さ3025mで10^(-9) m^(-2)であったものが深さとともに増加し,最深部の深さ3035mではバラツキはあるが,最大で10^(-11) m^(-2)近くになった。これまで測定したドームふじ深層コアの場合は,深さ3025mまで深さの増加とともに転位密度はほぼ単調に減少していた。これは氷床の流動に伴う氷の塑性変形で導入された転位が,地熱の影響を受けながら長時間かけてアニーリングされたことにより消滅したことによると考えられる。底面氷の場合には,岩盤に近いほど温度も高いため流動に伴いより大きな変形をしたため,転位密度が岩盤に近づくほど大きくなったものと考えられる。
イオンクロマトグラフ法による主要イオン濃度の深さプロファイルを測定した結果,3020mまではそれより上部と同程度のレベルであったが,3020m以深では深さの増大とともに濃度が緩やかに減少し,特に3030m以深で急激に減少した。化学イオンは氷結晶粒内から粒界へと移動し、粒界を経由して再分配が起こったと考えられる。このような主要イオンの減少傾向はVostokの氷河氷と再凍結氷の場合にも観測されている(Montagnat,2001)。しかしながら,Vostok再凍結氷ではイオン濃度は上部の氷河氷より一桁小さいことが報告されており、ドームふじの底面氷とは異なる。
空気ハイドレートの顕微鏡観察により,空気ハイドレートは底面氷に遍在することがわかった。このことは底面氷が氷河氷と同じ履歴を経て形成されたことを示唆している。ラマン散乱測定により空気ハイドレートおよび固体塩微粒子の同定を行った。固体塩微粒子としては,Na2SO4・10H2OまたはMgSO4・12H2Oが最も多く存在した。
本研究により,ドームふじ底面氷はその最深部で氷床の流動に伴う転位が多く含まれているという物理的な構造の特徴と、主要な化学イオン濃度に異常な変化が見られるという化学的な特徴の物理化学的な特徴が総合的に明らかになった。
  
成果となる論文・学会発表等