共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 分布型水文モデルを用いた寒冷山岳地域における年々の積雪水文過程の再現
新規・継続の別 新規
研究代表者／所属 防災科学技術研究所　雪氷防災研究センター
研究代表者／職名 主任研究員
研究代表者／氏名 平島寛行

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 山口悟 防災科学技術研究所　雪氷防災研究センター 主任研究員

2

 石井吉之 北大低温研 助教

研究目的 　寒冷な山岳域においては、積雪は融雪水の供給等により水文過程に大きく影響を及ぼす。特に積雪中の水分移動過程は降雨や融雪水の河川への流出応答に影響する。これまで積雪変質モデル"SNOWPACK"を用いて分布型の水文モデルの構築を行ってきたが、河川流出量との比較、検証が不十分であった。本研究では、これまで構築してきた分布型水文モデルと、タンクモデルを組み合わせた流域水文モデルを構築して河川流出量の計算を行うとともに、試験流域の河川流出量の実測値を用いて検証ならびにモデルの改良を行う。それにより改良されたモデルで積雪分布や流出量といった流域内における積雪水文過程の年々変動を再現する事を目的とする。
　　
研究内容・成果 　寒冷な積雪地域における水文過程のモデル化にむけて、積雪変質モデルを用いた山岳域の分布型水文モデルの開発を行っている。これまでの共同研究において、地形情報から気温や日射量の補正を行なって50mメッシュの分布に拡張した気象データを作成し、雪氷防災研究センターが所有する積雪変質モデルを用いて面的な計算を行ない、水文気象グループで行われた母子里の試験流域における観測結果との比較等を行ってきた。
　本研究では、行った面的な計算結果の検証を行うために、試験流域における面的な計算結果の各グリッドの底面流出量を入力としてタンクモデルを用いて河川流出量の時間変化を計算した。手順として、 1)無雪期のデータを用いたタンクモデルのパラメータの調整、2) 1で得られたパラメータの融雪期への適用、3)河川流出量の計算と実測の比較を行った。
　ここで、タンクモデルのパラメータは、母子里の試験流域において過去に得られているが、日積算値の降水量や流出量を用いて調整されたものであった。しかしながら、本研究のように融雪による水の供給を扱う場合は日変化が大きいため、1時間値で計算する方が望ましい。従って、1時間値の降水量及び流出量を用いてタンクモデルのパラメータの再調整を行った。その調整の際には、無雪期でかつ比較的土壌の湿っている9〜10月を対象に、3秋期分の降水量及び河川流出量を用いた。過去に得られていたタンクモデルのパラメータの一部を調整することで、河川流出量の時間変化を精度良く再現することができた。
　続いて、SNOWPACKで計算した面的な底面流出量分布から流域平均の水供給量を計算し、それを入力として上記の方法で再調整したタンクモデルのパラメータを用いて河川流出量を計算した。その計算結果を、融雪期における実測の河川流出量と比較したところ、融雪初期においては河川流出量が比較的良く再現されていた一方で、融雪期後半では流出量が過大評価されていた傾向が見られた。これは、モデルで計算された積雪量が融雪の遅い山の上で実際より多かった事を示唆しており、降水量の標高補正により山頂付近で降水量が実際より多く供給されていた可能性が示された。今後、タンクモデルと実測の流出量を用いた検証結果を利用して、降水量の標高補正を再調整し、試験流域の積雪分布の推定精度を高めていく予定である。
　また、底面流出量の再現性をさらに改善するために、積雪内部の水の不均一移動についてのモデル化も進めている。本研究では、水文気象グループが母子里において行った散水実験の再現計算にも取り組み始めた。また、異なる層における水の挙動に関する感度実験等も行った。今後これらの結果を用いて、散水実験とその再現計算結果を比較解析していく予定である。
　これらの研究により、積雪地域における水文過程がより正確に再現できることが期待される。
　　
成果となる論文・学会発表等 H. Hirashima， S. Yamaguchi， and Y. Ishii， Simulation of liquid water infiltration into layered snowpacks using multi-dimensional water transport model. ISSW proceedings， Banff， 48-54.
H. Hirashima， S. Yamaguchi， and Y. Ishii， Application of a multi-dimensional water transport model to reproduce the temporal change of runoff amount. ISSW proceedings， Banff， 541-546，