共同研究報告書
研究区分 | 萌芽研究 |
研究課題 |
アイスコア中の有機物トレーサー分析による過去の大気環境の復元 |
新規・継続の別 | 萌芽(3年目/全3年) |
研究代表者/所属 | 北大低温研 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 関宰 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
本山秀明 | 国立極地研究所 | 教授 |
2 |
東久美子 | 国立極地研究所 | 准教授 |
3 |
阿部彩子 | 東京大学大気海洋研究所 | 准教授 |
4 |
河村公隆 | 北大低温研 | |
5 |
白岩孝行 | 北大低温研 | |
6 |
的場澄人 | 北大低温研 |
研究目的 | 十年規模の気候変動の理解は近未来の気候変動の予測精度の向上において重要であり、その実態の解明が急がれている。メカニズムの解明には長い時間スケールの古気候データの解析が必要であるが、従来の手法による復元データの信頼性に疑問がもたれている。そこで本研究では従来とは異なるアプローチから十年規模気候変動の新規トレーサーの開発に挑戦する。カムチャツカ・アイスコアにエアロゾルの起源トレーサーである植物ワックス由来の長鎖アルキル脂質(n-アルカン)を適用し、半球規模の現象である北極振動および太平洋十年規模振動の高精度な復元手法の確立をめざす。 |
研究内容・成果 | 長鎖n-アルカンは陸上植物葉のワックスの主成分であり、森林火災や土壌の巻き上がりによって大気中に容易に放出され、極域にも長距離輸送さるので、氷河・氷床中にも保存されている。これまでの研究により植物葉ワックスのn-アルカンの分子組成は気候や植生を反映し多様な値をとることが示されている。もし気候帯により植物のn-アルカンの分子組成が異なるのであれば、アイスコア中のn-アルカンの分子組成からエアロゾルの起源を推定できる可能性が高い。 そこで東アジアの熱帯域からロシアの北極圏にかけて採取された沿岸域の海洋表層堆積物試料(文献値と新データを含む)のn-アルカンの分析および済州島で1年を通して採取したエアロゾル中のn-アルカン分析を行い、ACLと気候帯との対応関係やエアロゾル中のACLと大気循環の季節変動の解析を行い、起源トレーサーとしてのn-アルカンのACLの評価・検討をした。 海洋表層堆積物の結果から、植物n-アルカンの分子組成(平均炭素鎖数:ACL)は緯度と高い相関(r = 0.93)を示し、高緯度ほど低い値を示すことが示された。この結果より、n-アルカンのACLは植物が生育する地域の気候と密接な関連があることと、半球スケールにおいてはn-アルカンの分子組成を規定する主因は気温であることが明らかとなった(図1)。 一方で、済州島で採取したエアロゾル中のn-アルカンのACLは明瞭な季節変動を示し、低緯度からの風が卓越する夏期に値が高く、高緯度からの風が卓越する冬期において値が低くなることが示された(図2)。海洋表層堆積物中のn-アルカンのACLの緯度分布に基づくと、済州島のエアロゾルのACLの季節変化は夏期には低緯度起源のn-アルカンの寄与が増大し、冬期には高緯度からのn-アルカンの寄与が増大したことを反映していると解釈できる。これらの基礎研究により、長鎖アルキル脂質の分子組成はエアロゾルの起源を推定可能な有機分子トレーサーとして高い潜在性を持つことが示された。 次にこの手法を1998年にカムチャツカ半島の山岳氷河で採取されたウシュコフスキー・アイスコアに適用し、十年規模の気候変動の新規トレーサーとしての評価を行った。カムチャツカの気候は太平洋十年規模振動(PDO)や北極振動(AO)といった大規模な大気循環の再編を伴う十年規模気候振動の影響を強く受ける。従って、本研究で提案する新規トレーサーの評価おいて最適の場所である。得られた過去100年間のアイスコア中のACLの変動を気象データから得られたPDO指数と比較したところ、ACLはPDO指数との間に良い相関が得られた(図3)。この結果より、n-アルカンのACLは大気循環のトレーサーとして有効であり、ウシュコフスキー・アイスコアのACLの分析をさらに進めることで過去の十年規模の気候振動を復元できる可能性が示唆された。 |
成果となる論文・学会発表等 |
論文 A. Pokhrel, K. Kawamura, O. Seki, S. Matoba, T. Shiraiwa. Ice core profiles of saturated fatty acids (C12:0 - C30:0) and oleic acid (C18:1) from southern Alaska since 1734 AD: A link to climate change in the Northern Hemisphere, Atmospheric Environment 100, 201-209, 2015. 学会発表 関宰,北半球のアイスコアから復元した過去数百年間の有機エアロゾル濃度の変動,研究集会「アイスコア中の有機分子トレーサーによる大気循環復元」国立極地研究所, 2015年3月25日. 関 宰, 河村公隆, 藤井理行, James Bendle, アイスコア解析から明らかになった十年規模の気候変動に対する炭素質 エアロゾルのインパクト, 日本地球化学会, 富山大学, 2014年9月18日. |